ながいあいだかよっている美容院の、予約がとれなくなった。
スタッフがやめてしまい、店長ひとりきりの体制となったため、
2ヶ月さきまで予約がいっぱいだといわれる。
いつでも利用できるとおもっていたので、
ながいあいだはまてないほど髪がのびている。
しかたなく、ほかのお店をさがす。
町にはたくさんの理髪店・美容院があるのに、
なんで予約がとれないほど
ひとつのお店に人気があつまるのか。
かよっていた店は、よいサービスとはおもうものの、
予約でいっぱいになるほど 特別とはおもわなかった。
なじみのお店にいけないとなると、プランBがない。
いきなり散髪難民になった気分だ。
きのうシリアを話題にしたあとだけに、
軽々しく「難民」なんていいたくないけど、
しらない世界にいきなりほうりだされた
トホホ感とよるべなさは あまりたのしくない。
なじみのお店のほうが、気らくでいいけど、
とはいえ、わたしはそんなにお店をかぎるほうではない。
外国へ旅行にいったときでも、
その国の散髪事情がしりたくて、
目についた店にはいり、髪をきってもらう。
これまでにネパール・タイ・フランス・モロッコ・
ベトナム・フィリピンの散髪屋さんを体験した。
どの国も、予約なんかいれてない。
いきなりたずねても、ほとんどの国で
すぐにイスにすわらせてくれた。
印象にのこっているのが、ホーチミン市の理髪店で、
はじめにきいた料金はやすくても、
イスにすわっているあいだに、耳そうじやツメきりなど、
こっちの意志を確認せずにどんどんサービスにあたり、
それらぜんぶに追加料金がかかった。
けっきょくはじめにきいた金額の、2倍くらいを請求される。
だましているとはいえないけど、
しぼりとれるものはぜんぶいただこうとする
ベトナム人のすさまじいエネルギーをかんじた。
自宅と職場のあいだにやすそうな理髪店があり、
「予約なしでもOK」の看板がでていた。
のぞいてみると、髪をきるだけなら2100円という。
予約なしでいって、まつのはいやだから、
つぎの日の夕方に予約をいれる。
夕方6時にお店にはいると、そのあとも
ひっきりなしにお客さんがやってきて、
あたりまえのようにまっている。
予約していたひとたちらしい。
4人のスタッフが、手わけして お客さんをながしている。
30分まって、わたしの名前がよばれた。
3センチきって、とたのむ。
ほかのお客さんをみると、
モヒカンみたいに中央の髪だけをのこし、
その部分をかたまでながくのばしているひとや、
もうじゅうぶんみじかいのに
さらにきってもらいたがるひとなど、いろいろだ。
そういえば、ずっと美容院へかよっていたので、
男だけの客という環境がめずらしい。
子ども以外は、手間がかかりそうな髪型のひとがおおい。
3センチきるだけのわたしなんて、
めちゃくちゃかんたんな客ではないのか。
ひげそりとヘアトニック、それにマッサージはことわる。
追加料金を心配してのことだ。
あとからおもえば、マッサージはおそらく無料だったろう。
このごろ肩こりがひどく、マッサージ店にいきたいぐらいなのに、
そのマッサージを自分からことわるのは残念だった。
「肩がこらなくていいですね」
なんて ほめられてしまい、もしまたこのお店にくることがあっても
マッサージをたのみにくい。
たのまないのに、どんどん追加サービスにとりかかり
料金をうわのせしようとするベトナム方式が
教訓となりすぎてしまった。
すべてがおわり、鏡をみると、
あれっ?と拍子ぬけするくらい 変化がちいさい。
あたりさわりのないように、
それだけうまく髪をきってくれたのだろう。
なやみの種になりつつあった散髪が、
あっけなくかたづいた。
髪をきるだけにとどめた禁欲的な姿勢がみのり、
はじめにいわれたとおりの2100円をしはらって店をでる。