『偉大なるしゅららぼん』(万城目学・集英社文庫)
582ページもある、けしてみじかくはない小説だ。
お風呂で半身浴しながら、すこしずつよみすすめた。
なげだすほどつまらなくはないが、
おもしろくてとまらない興奮はない。
やめるにやめられず、あつかいにこまっているうちによみおえる、
あまり経験のない読書となった。
さいごまでよませるのだから、文句なんていいたくないけれど、
もうすこしなんとかならなかったのか。
600ページちかくも必要だったとはおもえないし、
600ページをついやすのなら、もっと読者を
ものがたりの世界であそばせてほしかった。
万城目学さんのもち味である、ありえないちからのはなしで、
そのありえなさにリアリティがとぼしい。
不思議だけど なんだかありえそうと、おもわせてくれたら
スラスラよめただろうけど、
いくらなんでも これは大げさだろうと、
ひっかかりながらの読書は、ページがはかどらない。
ありえなさにリアリティをもたせるのが
小説家の生命線ではないだろうか。
むかし日本の各地にある湖には、
その湖とむすびついた特殊なちからが存在し、
ちからをうけつぐ一族(湖の民)が湖のまわりでくらしていた。
いまでは琵琶湖にしか そのちからがのこされていない。
一族は後継者をえらび、ある年齢にたっすると、
能力をたかめるための訓練をほどこしている。
こまかい設定はもっとたくさんあるけど、
こまかさがリアリティにつながらず、
めんどくさいだけの説明におわっている。
おわりまでよみとおせたのが不思議なくらいで、
それこそが湖の民のちからだったのかもしれない。
島根には宍道湖という
日本で7番目におおきな湖がある。
かつては宍道湖からちからをえていた民がいたと
本書でもちらっと名前があがっている。
もしかしたらわたしのまわりにも、
湖の民の末裔がいるのでは、と
すこしでもおもえれば たのしい読書だけど、
残念ながら宍道湖のそばにくらすわたしでも、
湖につたわるちからが唐突すぎて ついていけない。
おわりまでよませてくれたとはいえ、
せっかくの素材を料理しきれなかった印象がつよい。
『鴨川ホルモー』のありえないゲームをなつかしくおもいだす。
『偉大なるしゅららぼん』の半分ほどのながさしかない小説で、
じゅうぶん読者をしらない世界にひきずりこんでくれた。
あんな不思議な世界をかききった万城目氏なのに、
『偉大なるしゅららぼん』では 残念ながらうまくいかなかった。