朝日新聞の土曜日版beで、新宿ゴールデン街がとりあげられていた。
作家やアーティストなど、
あやしげな業界人がこのんだ のみ屋街だという。
常連客としてゴールデン街にでいりした作家に、
田中小実昌さんの名前があがっている。
コミさんは、もっぱらジンをこのみ、
とうぜんながら、いつもよっぱらっていたそうだ。
わたしがはじめて小実昌さんをしったのは、
アメリカの軽ハードボイルド作家、
カーター=ブラウンの翻訳者としてだった。
カーター=ブラウンの作品は、なんにんかのひとが訳しているけど、
そのかるい世界をあらわすのに、
小実昌さんの訳がいちばんしっくりくるようにおもった。
アル=ウィーラ警部のでてくるシリーズが、
わたしはとくにすきだった。
ハードボイルドなのに、ちからをぬいて生きているのがいい。
やたらと軽口をたたきながら、あんがい仕事はちゃんとやっている。
エッセイをよむと、小実昌さんは、
日本でも外国でも、しらない町へでかけ、
いきさきのわからないバスにのるのがすきらしい。
いかにも自由きままなすごし方がかっこいい。
そして、旅さきでも、やはりジンを基本に 酒をもとめている。
お酒をかいにいったとき、いつもだと、
ジンはゴードン=ドライジンにきめているけど、
ほかのジンもためしてみる気になる。
小実昌さんの記事が頭をかすめたからだ。
小実昌さんはきっと、どのジンがいちばん、
なんていわなかっただろう。
ジンのかおりがして、よっぱらえたらよかったのではないか。
わたしだって、こまかなちがいがわかるほど、
りっぱな味覚はもっていない。
かったのは、おなじみのゴードン=ドライジン・
ギルビー、そしてボンベイ=サファイアの3本だ。
ボンベイ=サファイアだけ、うすいブルーの色がついている
(とおもったら、ビンの色であり、ジンは透明だった)。
ゴードンとギルビーは37.5度で、ボンベイ=サファイアは47度。
ギルビーは値段のやすさにつられ、
ボンベイ=サファイアは、しりあいがすすめていたから。
ためしてみると、やはりゴードンがいちばんおいしくかんじる。
ただ、なんとなくゴードンのほうが、というレベルなので、
そのうち違和感はなくなるかもしれない。
わたしがジンをのむときは、ほとんどの場合ジン=トニックだ。
ことしになって、レモンではなくライムを、
冷蔵庫の氷ではなく、ロックアイスへと すこしこだわってみる。
のこりの人生で、あと何回ジン=トニックをのめるかわからないので。
ギルビーは、水わりのほうがいい、と
ネットにのっていたのでためしてみる。
たしかに、ソーダやライムをいれないほうが、
おいしいような気がした。
いずれにしても、ジンはこゆめにつくったほうがおいしい。
うすいジンほどふやけた酒はない。
「なにかのみますか?」とたずねられたときに、
アル=ウィーラ警部はきまって、
「スコッチのオン・ザ・ロック、ソーダをちょっぴりいれて」
とこたえていた。
ジンもいっしょだ。
あくまでも こゆく、ソーダはちょっぴり、が
ただしいジンの たのみ方である。