「上を向いて歩こう」は、もちろん
永六輔さんと中村八大さんがつくり、坂本九さんがうたった曲だ。
そして、九ちゃんだけでなく、RCサクセッションもうたっている。
RCのばかりきいてきたわたしは、
「上を向いて歩こう」といえば、RCのほうをまずイメージする。
https://www.youtube.com/watch?v=E2XHVqmlv_s
本の出版でいうと、九ちゃんのが旧訳で、
RCは新訳ということになる(ほんとうか!)。
ぜんぜんちがうとまではいえないけど、
かなりあたらしい解釈がもちこまれ、
別物の曲にしあがっている。
有名な曲をべつの歌手がうたうときに、
よくカバーとよばれるけれど、
カバーは新訳ほどの斬新性はなく、せいぜい改版でしかない。
この法則を発見したとき、
わたしは自分のするどさにおどろいてしまった。
とはいえ、これはわたしがえらいわけではなく、
RCの、あるいは清志郎のアレンジがそれだけすさまじく、
換骨奪胎がみごとにはきまっているからだ。
ちなみに、清志郎は「君が代」も新訳でうたったけど、
こちらはあまりおおくのひとになじまなかったようだ。
新訳なんて いきなりいいだしたのは、
「本の雑誌 10月号」の特集が、新訳だったからだ。
新訳といえば、光文社の「古典新訳文庫」が有名だけど、
ほかの出版社もたくさんだしており、
特集ではえりすぐりの50作が紹介されている。
亀山郁夫氏による新訳『カラマーゾフの兄弟』をよみ、
旧訳よりずっとすらすらよめた体験をもつわたしは、
本には賞味期限があるという説に賛成する。
村上春樹さんによる『ロング・グッドバイ』や
『キャッチャー・イン・ザ・ライ』、
それに『グレート・ギャツビー』も、旧訳よりしたしめた。
特集でもふれられていたように、
新訳はあたらしい読者へのよびかけでもあるけれど、
再読へのきっかけにもなる。
文体がよくねられていて よみやすいし、
たいていは活字がおおきくなっているので、
老眼となったわたしにはとてもたすかる。
わたしは、気にいった本を歳とってからの再読のために、
ごっそり本棚に確保してあるものの、
ふるい本のおおくは活字がちいさくて、よむのに難儀をする。
字のちいささは、再読のおおきな障害であり、
せっかく本棚にしまいこみながら、
再読のときにはあらたに新訳をかうかもしれない。
九ちゃんはが「上を向いて歩こう」をうたったのは1961年で、
RCサクセッションによる「新訳」は1979年。
もう、どちらもたっぷり時間にさらされて、りっぱな古典となった。
いまさらわたしがもちあげるまでもないけど、
RCの「上を向いて歩こう」をきいたことがないひとには、
ぜひスキヤキでないほうの新訳を味わっていただきたい。