2017年10月08日

老人って、内面はわかいころとかわらないのかも

『ラジオ・ガガガ』(原田ひ香・双葉社)

ラジオ番組が脇役となっている短編集。
第1話の「3匹の子豚たち」にでてくる信子さんは
ラジオをきくのがすきな75歳の老人だ。
なんの状況説明もなく、いきなりラジオ番組のはなしがでてくるので、
いったいどこで・だれが・なにをしているのかがわからない。
苦情をいっているのではなく、これはひとつのテクニックだ。
情報がなければわからないほど、
老人と中年(たぶんわかものも)の内面に差はない。
本当に聴いてんのかよ、お前。ラジオ深夜便なんて老人相手のスローテンポな番組、聴いたことないくせに。あんなつまんないラジオ、私だって聴かないのに。27歳の男が?逆に気持ち悪いわ。

これは、ケアホームでの初日に、
信子さんが職員から趣味をたずねられている場面だ。
わかもののような胸のうちをきいているだけでは、
信子さんの年齢がつかめない。

老人というと、みかけが年よりであるとともに、
その内面までふけこんでいるようにおもいがちだけど、
信子さんは、わかいころからかわらないようにみえる。
信子さんだけでなく、老人は胸のなかで、
わかいころとおなじ思考をくりひろげているのではないか。
まわりが年よりあつかいをするし、
自分でもからだがまえのようにはうごかないので、
年よりであることをうけいれるしかないけど、
気もちはわかい、というよりも、わかいころとかわらない。
ただ、じっさいに口にするとややこしくなるので、
おとなしくほほえむだけでやりすごす。

このまえひさしぶりに配偶者の顔をじっとみたら、
ずいぶんふけこんでいたのにおどろいた。
むこうも、わたしの顔をもしじっくりみたら、
おなじようにおもうだろう。
自分では そんなにまえとかわってないつもりでも、
まわりからみればりっぱな中高年世代だ。
あと20年すれば、だれがどうみても老人であり、
老人としてあつかわれるようになる。
くりかえすけど、内面はまえといっしょなのに。

「3匹の子豚たち」をよみすすめるうちに、
信子さんがラジオをきくようになったきっかけや、
3人のむすこが、それぞれのやり方で
信子さんを心配しているのがわかってくる。
微妙な距離感で子どもたちをそだてたのは、
ほかならぬ信子さんであり、
その信子さんをささえてきたのが深夜放送と、
よくねられた構成がうまく、ラストがまたきまっている。
もうするべき仕事はすべておえた、とおもっていた信子さんが、
おもいがけず、あたらしいスタートをきれそうだ。

posted by カルピス at 21:44 | Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする