2018年02月16日

『監督たちの流儀』(西部謙司) リスクをおかすジェフ千葉のサッカーがみたくなった

『監督たちの流儀』(西部謙司・内外出版社)
ジェフユナイテッド千葉に初のアルゼンチン人監督がやって来た。そして、まもなく食事のメニューからカレーが消えた。

この本は、「はじまり」がなく、
いきなり「きえたカレー」のはなしでスタートする。
最高の「つかみ」が みごとにわたしの好奇心をとらえ、
そのさきがすぐにしりたくなる。
いったい、この監督はなにをかんがえているのだろう。

この本は、いくつかのテーマにそって、
典型的な例となる監督が分析されている。
いつもながら西部さんは文章がたくみなので、
すこしよみはじめると、
あとは一気におしまいまでページをめくる。
章だては、以下のとおり。

・信念を貫くということ
・天才選手は天才監督になりえるか
・長期化する創業者
・継承力
・リアリストの見る夢
・長期的戦略と監督えらび
 (日本代表監督の場合)

カレーをメニューからけしたのは、
ジェフユナイテッド千葉のファン=エスナイデル監督だ。
西部さんによると、この監督は、
ディフェンスラインをものすごくたかく設定するので、
ゴールキーパーは広大なスペースをカバーする必要があり、
どうしても点をいれられやすくなる。
しかし、「信念を貫く」この監督は、
自分のサッカーをやるかぎりにおいて、
必要なリスクをおかすのにためらいがない。
むしろエスナイデルの態度で目立ったのは、”このサッカーをやる限りこのリスクは受け入れなければならない”というものだった。例えば、GK(ゴールキーパー)が前進しているためにガラ空きになっているゴールにロングシュートを決められても、それはコストである。

わたしがすきだった元日本代表監督のオシムさんも、
リスクのはなしをよくしていた。
リスクをおかさないサッカーはうつくしくない、
というかんがえ方で、
ひいてまもってカウンターねらいのサッカーよりも
はるかに魅力がある。

西部さんの豊富なひきだしをもってすれば、
この本をかくのはたやすかったにちがいない。
監督たちの戦術を、ただ紹介するだけでは
ほかの本とおなじになるところを、
西部さんはカレーのはなしからはじめたりする。
なによりも西部さんがすぐれているのは、
大量のデーターを、きれいに整理するちからではないか。
サッカーのながい歴史において、
有名な戦術と選手が、これまでにたくさんうまれている。
それらを本のテーマにそってわかりやすく説明し、
特徴をときあかしてくれるのが西部さんのサッカー本だ。
比喩がうまく、うつくしくたくみな文章に、分析力。
おもしろそうな企画を、これらのちからで料理するのだから、
西部さんの本は、どれもよまずにおれなくなる。
この本もまた、期待をうらぎらなかった。
守備ラインをありえないほとだたかくあげる
ジェフユナイテッド千葉のサッカーをみてみたい。

リアリストであるとともに、ロマンチストでもある監督が、
本書には何人も登場する。
つよいだけがチームの魅力なのではなく、
リスクをおかしてゴールをめざすサッカーがわたしはすきなので、
なおさら本書はわたしのこころをとらえた。
川崎フロンターレのサッカーをつくった風間監督が、
名古屋グランパスの監督としてJ1リーグにかえってくるし、
浦和と広島で独特のスタイルをひろめたペトロビッチ監督も、
コンサドーレ札幌の監督として指揮をとる。
今シーズンのJリーグ、そしてWカップがたのしみになる。

posted by カルピス at 21:29 | Comment(0) | サッカー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする