2018年07月01日

『君は永遠にそいつらより若い』(津村記久子)大学生活のグダグダ感がすごくリアル

『君は永遠にそいつらより若い』
(津村記久子・ちくま文庫)

あらすじを紹介しにくい。
卒業と、地元での就職(公務員)をひかえたホリガイさん
(22歳・175センチ・処女)が主人公で、
彼女の身のまわりのできごとがグダグダとかたられる。
はなしがなかなかさきへすすまないので、
まだるっこしくなったころ、
ようやくものがたりの骨格がみえてくる。
なにごともどうでもいいと
テキトーに生きてるようなホリガイさんだけど、
ほんとうは筋をとおすひとのようだ。
彼女の生きづらさ、まじめさにしたしみをおぼえはじめると、
そこからは、ホリガイさんのかたりかけに ひっぱられるままとなる。

ホリガイさんは、はっきりとした方針をまとめているわけではないし、
もともとがスマートに生きてきたひとではないので、
いったいなにがやりたいのか ちょっとわかりにくい。
その胸のうちはグチャグチャで、
そんな自分をもてあまし気味でもあり、ひらきなおってもいる。

すごくひらいていうと
ホリガイさんの生きるすべは、
サラ=パレツキーかくところのウォーショースキーに似ている。
ウォーショースキーから5割くらいめんどくささをひくと、
ホリガイさんになる。
自分が生きずらいのはしょうがないとうけとめている。

ホリガイさんの部屋は、ものすごくちらかっている。
 きったない部屋やなあ、と吉崎君は電気をつけるなり、呆れたように言った。洗い物の山が、外出の間に動かしていた洗濯機の上から滑りおちたようだった。上り口にいきなりブラジャーが落ちていて、わたしはその金具を踏んでしまって絶叫した。

まくら元には、グラビアアイドルの画像がいくつもはりつけてある。
布団はもちろんしきっぱなしで(たぶん)、
でもいいやつなんだホリガイさんは。

セミナーやサークル、それにバイトさきなどで、
かんたんに友だちになってしまう大学生たち。
このものがたりの そもそものスタートは、
のみ会でよっぱらった女の子を、
ホリガイさんが自分のアパートにつれてかえり、
それがきっかけで、レポートをうつさせてくれと
ぜんぜんしらない女子学生にたのむはめになり、
たのんでみると、なんとなく彼女としたしくなり・・・、
グチャグチャのはなしが どうつながるかとよみすすめるうちに、
ホリガイさんの「ボロは着ててもこころの錦」がみえてくる。

バイト先でしりあった年したの男子学生について
together という単語を「トゥ・ゲット・ハー」と読んでしまうようなどうしようもない子だった。

というのがおかしい。たしかに「トゥ・ゲット・ハー」だ。

亡くなったしりあいの部屋をたずね、
もってかえるものを遺品からえらぼうと、
ホリガイさんはダンボール箱をのぞきこむ。
わたしは「ブルースブラザーズ2000のDVDと魚焼きグリル活用料理の本をもらうことにした。

なにげない描写のリアリティがひかる。

朝日新聞に連載された『ディス・イズ・ザ・デイ』は、
2部リーグのサポーターに焦点をあてての、
すぐれたサッカー短篇集だった。
『君は永遠にそいつらより若い』は、津村さんのデビュー作であり、
1作目からすでに わたしごのみの世界をかいている。
スマートに生きれないホリガイさんが、
だんだんとすてきなひとにおもえてきた。
津村さんの小説は、わたしの琴線にふれやすい。
解説もまたよかった。
松浦理英子さんは読者にむけて
津村さんの本質をわかりやすく説明している。
「解説」のお手本のような文章であり、
本編とあわせ、おすすめの一冊にしあがっている。

posted by カルピス at 20:55 | Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする