『許されざる者』
(レイフー=GW=ペーション・久山葉子:訳・創元推理文庫)
元犯罪捜査局長官のヨハンソンが、
ホットドックの屋台で、好物のソーセージを注文し、
さあたべようとしたときに、脳梗塞でたおれる。
さいわい、適切な緊急措置をうけ、
一命はとりとめたものの、手足にはマヒがのこり、
頭も以前のようにははたらかなくなってしまった。
そんなヨハンソンが、主治医となった女性医師から、
25年まえにおきた事件について、相談をもちかけられる。
9歳の少女が暴行をうけ、殺害された事件について、
彼女の父親が犯人をしっているという。
事件はすでに時効をむかえているが、
ヨハンソンはおもうようにうごかないからだで
捜査をすすめていく。
本文だけで566ページあるぶあつい本だけど、
ものがたりは時間の経過にそって、すこしずつかたられていく。
脳梗塞をおこした日が章だてのスタートとなり、
1 2010年7月5日(月曜日)の夜
2 2010年7月5日(月曜日)の夜から7日(水曜日)の午後
3 2010年7月7日(水曜日)の午後
と、かなりこまかい。
ここらへんは、体調が万全ではないヨハンソンに
時間のながれをあわせたかんじだ。
その日のうごきが、ていねいに描写してある。
リハビリにとりくむいまのヨハンソンにとって、
いまやいちにち・いちにちが貴重な時間となる。
なにもおきず、いちにちをぶじに生きのびるのが、
どれほどたいへんなことか。
いくつもの別のはなしがからみあったり、
むかしのはなしが きゅうにはさまれたりしないので、
ながくても混乱せずに ミステリーをよむたのしさにひたる。
67歳のヨハンソンが脳梗塞でたおれたのは、
彼の美食と運動不足が原因なのであり、
自業自得といえなくもない。
マヒののこるからだと、すっきりしない頭をかかえ、
それでも捜査にのりだすのは、ゆるしがた犯罪が時効となり、
法的には なんのとがめもうけないとはいえ、
なんらかの方法で犯人にこらしめたいからだ。
職人かたぎの元警察官であり、悪質な人間をのさばらせたくない。
「状況を受け入れろ。無駄にややこしくするな。偶然を信じるな」
がヨハンソンの信条だ。
マヒをもったからだをうけいれるしかない。
「偶然を信じるな」は、ミステリーの基本だ。
偶然であった人物は、偶然にであったわけがない。
ヨハンソンは、偶然をしんじずに、犯人をしぼりこんでいく。
犯人は、わりとはやい段階であきらかになる。
そうなると、9歳の子をひどいめにあわせた
ゆるしがたい男にたいし、
どんなひどいしうちを用意するかに興味がうつる。
ヨハンソンが用意周到に外堀をかため、
じわじわと犯人をおいつめていくのに溜飲をさげる。
脳梗塞は、わたしにとってもけして他人ごとではない。
いつかからだにマヒをかかえたときにはこの本をとりだし、
患者としてのヨハンソンを参考にしたい。