『クロストーク』(コニー=ウィリス・大森望:訳・早川書房)
『クロストーク』をよみおえる。
ハヤカワのポケットブック版で、上下2段にくまれ、
解説をふくめると、ぜんぶで715ページある。
3000円もするし、やたらとながく、
にがてなSFなのによむ気になったのは、
書評番組の「北上ラジオ」で、
北上次郎さんが絶賛していたからだ。
http://www.webdoku.jp/column/radio/2019/0221113331.html
番組で司会進行をつとめる杉江さんは、
「読んでも読んでも終わらない」とブログにかいている。
こわいものみたさでよんでみたくなった。
SFといっても、基本的な設定は現代なので
SFにふなれでも すんなりよめる。
とはいえ、よみはじめが3月1日なのだから、
1ヶ月半もかけてよんだわけだ。
おもしろいけど、たしかに「読んでも読んでも終わらない」。
『カラマーゾフの兄弟』は、おおくの場合
よみとおすことが目的の読書となるように、
『クロストーク』もさいごまでよめた事実をまずよろこぶ。
相手がなにをかんがえているのかわかったら・・・、
とおもったことのあるひとはおおいだろう。
ことばをつかわなくても、相手の頭のなかをのぞけたら、
いま自分にたいしてどんな感情をもっているのかがわかる。
脳への簡単な手術で、そんなコミュニケーションを
かんたんにとれるようになるのが『クロストーク』の世界だ。
しゃべらなくても、あいてのかんがえが かってに頭にはいってくる。
でも、じっさいは、いいことばかりではなく、
ややこしい問題がたくさんでてくる。
特定の相手だけでなく、まわりにいるひとたち全部の「声」が、
ワッと波となって暴力的におしよせてきたらどうなるか。
自分への悪意であったり、まわりのひとについての悪態であったりと、
ひとの頭のなかは けしてきれいにまとめられてはいない。
しらないほうがいいことがおおいのに、
むりやりその波がおそいかかったくるのだから、
精神につよいダメージをうけてしまう。
ひとがたくさんあつまる場所、たとえば
コンサートや野球場などへいったらたいへんだ。
この技術を携帯電話のアプリにつかおうとするひとたちがいて、
携帯電話の開発をめぐり はなしがこじれていく。
もしいつもつかっているスマホの機能で、
相手のかんがえがダイレクトにわかるようになれば、
画期的なコミュニケーションとして
おおくのひとがもとめるだろう。
そして、あんがいちかい将来にそんな技術が開発され、
スマホについているあたりまえの機能になるような気がしてきた。
コミュニケーションの未来は、ことばなしで
相手のこころがわかる世界かもしれない。
たしかにながい小説だけど、
章のおわりに かならずとんでもないことがおこるので、
ついついさきへすすみたくなる。
大森さんの訳もこなれていて、とてもよみやすい。
ながさだけでなく、じゅうぶんたのしめる小説としておすすめだ。