前作の『甘いお菓子は食べません』にいい印象をもった。
このひとの作品なら はずれはないだろうと手にとる。
7編からなる短編集で、どれも女性が主人公だ。
異星人にわかい女性がさらわれる「あなたの惑星」がおもしろかった。
以下、ネタバレあり。
外見は地球にいるイグアナみたいなのに(直立してうごくけど)、
高度な文明をきずきあげている惑星から異星人はやってきた。
さらわれてどうなるかというと、
彼らの星につれていかれ、動物園みたいなところで飼育される。
そこは、宇宙じゅうの星からあつめられた宇宙人を展示するところだ。
彼女はちいさなビキニをきせられ、
おとずれてくるイグアナたちに見物される。
彼女がさらわれた直後に、
「アメリカとキタチョウセンという国が戦争を始め、全面的なカクセンソウになってしまったそうです。地球は壊滅的な被害を受け、今現在、地球上の人類は絶滅したと考えられています」
という状況なので、彼女はもう、
もとの生活にもどれる可能性はまったくない。
アメリカとキタチョウセン、なんていわれると、
じっさいにそうなってもおかしくないので、ちょっとおそろしい。
こうした設定がじわじわあかされたのち、
彼女は地球人が絶滅しないために、
繁殖するよう期待されているのがわかってくる。
「今この惑星で生殖能力がある地球人は、あなたと、推定七十代の男性しかいないのです」(中略)
「だから、あなたが、一刻も早くその推定七十代の男性と・・・いわゆるその・・・まぐわって子供をつくらないと、人類が滅びるんです」
かきだしていると、
なんだかくらくて すくいのないいはなしにおもえるけど、
基本はドタバタで、かるいのりのSFだ。
だいいち、たとえ高度な知性をもっていても、
外観がイグアナでは、深刻なはなしになりようがない。
彼女は飼育員の「モモさん」に好意をよせるようになり、
彼といっしょにいられるのなら、推定七十代の男性と
「まぐわって」もいいとおもうようになる。
ここからは一気にラストまですすむ。
モモさんに自分の好意をつたえようと、
彼女はモモさんのまえで自分のからだをまさぐった。
あたしのなかで、なまめいた気分が盛り上がっていく。
そして、とうとう飼育員たちにみまもられながら
推定七十代の男性との交尾へ。
あそこにいる飼育員全員も、この交尾が成功するようにあたしたちを見守っている。同じ宇宙に生きるものとして、命をつないでいく手助けをしてくれている飼育員たちの思いが、伝わってくる。
なにが「同じ宇宙に生きるものとして」なのか
ぜんぜんわからないけど、不思議な一体感がおかしい。
ほかの6編も、どれもよませる。
おすすめの一冊だ。
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