角田さんがいろんなスポーツ
(フルマラソンやトレイルラン、ヨガに登山など)
に挑戦し、その体験を記事にまとめたもの。
文藝春秋が季刊発行している雑誌「Number Do」に連載されたという。
角田さんはわかいころ運動にまったく興味がなく、
しりあいが代表をつとめるランニングクラブの
のみ会に参加したくて週末のランニングをはじめている。
ひとがスポーツにとりくむはなしがだいすきなので、
この本はわたしにとって「おもしろいにきまっている」本であり、
じっさいどの記事もたのしくよんだ。
角田さんのフルマラソンのベストタイムは、
ながいこと4時間40分ちょっとで、
なんかいはしっても、40分をきれなかった。
4時間38分がベストタイムのわたしは、
それをしってほくそえんだのだけど、
角田さんは、ロッテルダムマラソンで、
みごとにベスト記録を更新し、4時間26分をマークしている。
20キロを5分30秒のはやさですすみ、
用心のため6分30秒までペースをおとしたというから、
スピードも、持久力もわたしよりうえだ。
週末しかはしってないそうだけど、
あんがいすくない練習量が いい影響をあたえているのかもしれない。
気もちが新鮮なままだし、からだにつかれがたまらないし。
スポーツをはじめるというと、
健康のためや、体型のためかとおもうけど、
角田さんは、どのスポーツも健康維持とは関係がないそうで、
いちばん興味を引かれるのは「体力作りに有効かどうか」ではなく、「自分にできるかどうか」なのだ。(中略)どうも私は、「何かいいことがある」ということが、運動を続ける動機にはならないらしい。「筋肉がつく」「痩せる」「ボケ防止になる」等々、何かしら、肉体的に得をすることがあるらしい、と思っても、やる気にはならない。
なぜ運動をするのか、理由がきれいに整理されているひとは
あんがいすくないのではないか。
みんなそれぞれ矛盾をかかえたまま、
なんだかんだと あたまをごまかして運動をつづけている。
はっきりとした目標があればつづくかというと
それがまた そうではない。
スポーツクラブにはいっても、だんだんいく回数がへり、
やがて退会するするひとがどれだけおおいことか。
目にみえた効果をあげようとおもえば、
週に1どや2どのトレーニングではたらない。
毎日、もしくは1日おきに、自宅でも腹筋運動のできる意思の強さがあれば、何もスポーツクラブに通わなくともよいのではないか。みんな、それができないとわかっているから、「それならせめてスポーツクラブで」と思い、入会するのではないか。(中略)なんたる皮肉だろう。自分で毎日できないからスポーツクラブにいくのに、毎日がんばるくらいスポーツクラブでかんばらないと理想体型にはならない。
おもしろかったのは、メドックマラソンでの体験だ。
フルマラソンをはしりながら、
オードブルにはじまりデザートまでをたのしみ、
そのあいだ、数キロごとに上等なワインをのめる有名なレース。
必須ではないものの仮装を奨励されており、
角田さんはまつりのハッピとちょんまげのカツラを身につける。
いつもネガティブな気もちでランニングをしている角田さんは、
「一度でいいから、たのしいたのしいと思いながら走ってみよう」と
この日の課題を、「たのしむ」とし、レースにのぞむ。
わたしもメドックマラソンにあこがれてはいるものの、
酒によわいので、ワインをのみながらはしる自信はない。
角田さんはまいばんワイン1本をのむほどなので、
メドックマラソンにエントリーする資格がある。
すごく飲みたいか、と言われれば、そうでもない気もするのだが、飲めるときに飲まなくてどうする、という飲み意地根性になっている。26q地点、28q地点、29q地点、31q地点、にっこり差し出されるグラスやプラスチックカップをもらって飲み続けた。
体力的にはつらいレースだったそうだけど、
あまりにもとんでもない大会なので、
終わってみれば自然と口をついて出てくるのは、「たのしかった」である。
ますますメドックマラソンをはしりたくなったけど、
レースちゅうはたべるだけにして、
ワインはゴールをしてからのほうがよさそうだ。
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