わたしがつとめる介護事業所から、
盲とろう障害をもつランナーの、伴走をしてほしいと
はなしをもちかけられた。
障害者サービスとしてではなく、まったくのボランティアだ。
9月に茨城でひらかれる 障害者の全国大会に出場するため、
練習をつんでおきたいという。
これまで自分のためだけにはしってきたわたしは、
なんらかのかたちで ひとのやくにたちたいとおもっていた。
わたしのレベルで はたしてやくにたてるだろうか。
その方は、「あるくよりすこしはやい程度」のはしりというで、
だったら、わたしでも大丈夫だろう。
でも、盲・ろう障害のひとと、
どうやってコミュニケーションをとればいいのか。
すこし視力があるので、普段は、手話によるやりとりらしいけど、
わたしは手話がまったくできない。
わたしにはなしをもってきた 職場のひとにきくと、
手のひらに 指で字をかけば、たいていのことはわかるそうだ。
きょうが伴走の1回目。
なんどか依頼主とコミュニケーションをとったことのある同僚と、
ふたりで自宅へむかう。
同僚にわたしを紹介してもらい、
これから車でちかくの運動公園へいきましょうとつたえる。
盲・ろう障害のひと、というと、
ヘレンケラーみたいな聖人をおもいうかべるけど、
今回いっしょにはしることになった方は、
わたしと同年代で、かるいのりのおじさんだった。
ろう障害でも、あるていどはなせるので、
わたしとは、手のひらに字をかきながら、
かたことのことばをやりとりして コミュニケーションをとる。
運動公園は、外周が1キロだとつたえると、
2周して、休憩をとり、そのあとまた2周する、といわれる。
ながめのてぬぐいでつながり、ゆっくりはしりだす。
きいていたとおり、あるくより、すこしはやい程度のスピードで、
わたしのレベルでもなんとかつきそえた。
夕方5時とはいえ、まだあつさがきびしく、
はしりなれておられないのでつらそうだ。
2周はしったところで、あついから、
きょうはこれでやめる、といわれる。
脈拍をとってみると、160まであがっており、
2周でやめて正解だったかもしれない。
しばらくしてもういちど脈をはかると
130までさがっていたので安心した。
ベンチにすわって やすみながらおしゃべりした。
わかいころは、陸上の選手だったそうで、
はしりはばとびでは、5メートルもとんだという。
9月の大会では1500メートルのほかに、
やりなげと砲丸なべにも参加する予定らしい。
これからやりなげをならう、といわれる。
全国大会では、おおきなメダルがもらえるので、
たくさんもらってかじりたいそうだ。
島根の大会は、メダルがちいさくてしけていると、
わらいながらはなす。
このかたは、はじめは「ろう」だけの障害だったのに、
おとなになってから盲の障害もひきおこしている。
わたしなら、とてもたちあがれないダメージにちがいない。
でも、このかたは、あかるく、なんでもわらいとばす。
脈をとっていると、大丈夫か?もうだめだろう、
救急車をよんでくれ、とわらいながらいわれる。
くらい影をすこしもかんじない。
わたしとは、まったくちがう世界に身をおきながら、
こんなにも まえむきに生きられるのだとおどろかされる。
盲とろうの重複障害など、すこしもかんじさせないかるさがある。
家までまた車でおくると、ありがとうございましたと手話でつたえ、
すぐに玄関の鍵をあけてなかにはいられた。
サバサバしたおわかれがここちよかった。