2019年10月15日

『バジュランギおじさんと、小さな迷子』

『バジュランギおじさんと、小さな迷子』
(カビール=カーン:監督・2015年・インド)

パキスタンのちいさな村にすむシャヒーダーは、
6歳になってもことばを口にしない。
心配する母親は、インドのニューデリーにある
なんでもねがいがかなうという廟(びょう)へ
むすめをつれておまいりしようときめた。
おいのりしたかえり、インドとパキスタンの国境付近で
シャヒーダーがそとにでているあいだに列車がうごきだす。
口をきけない女の子が、ひとりインドにのこされてしまった。
(以下、ネタバレあり)

のどがかわいたシャヒーダーは、
インド人の青年パワンが注文したジュースをのみほし、
そのあとずっとパワンのあとをついてはなれなくなる。
パワンは警察にシャヒーダーをあずけようとするがことわられ、
しかたなく、ニューデリーの家へシャヒーダーをつれてかえる。
なにかことばをくちにだせれば、どこからきた子なのか、
まわりのひともあたりをつけやすい。
でも、シャヒーダーになにかたずねても、
こまったように首をかしげるだけだ。
あるとき、みんなでインド対パキスタンのクリケットをみていたら、
シャヒーダーがパキスタンチームを応援しだした。
パワンたちは、ようやくシャヒーダーが
パキスタンからきた子なのだと理解する。

シャヒーダーはパスポートもビザももってない。
パキスタンのどこからきたのかもわからない。
パワンは旅行会社に金をはらい、不合法な手段で
シャヒーダーをパキスタンへかえそうとする。
でも、旅行会社の男は、金だけうけとって、
シャヒーダーを売春宿にうろうとするのだった。
パワンは、もう自分がシャヒーダーを
パキスタンへおくりとどけるしかないと腹をきめる。
パスポートもビザももたないふたりの旅がはじまった。

ここまではなしがすすむのに、すでに1時間かかっている。
とうぜんおどりがなんどもはいり、
さすがにインド映画だけあって長期戦のかまえだ。
でも、旅がはじまると、ものがたりがうごきだし、
ぐっとおもしろさがましてくる。
ぜんぶで2時間40分の作品なのに、さいごまでたのしめた。

パスポートとビザをもたずにパキスタンへはいろうとするのだから、
パワンは知恵と勇気をかねそなえた好青年かとおおもっていたら、
ぜんぜんそうではなかった。
ハヌマーン教をしんじ、ハヌマーン様がついているかぎり、
なにをおそれることがあるだろうと、
まがったことができないおひとよしだ。
なんども落第をくりかえして ようやく大学を卒業するくらい
頭のできがいまひとつで、仕事もできない。
まあ、バリバリの青年実業家が、
女の子をふるさとの町におくりとどけたりしても、
まわりはなんだかしらけてしまうだろう。
いかれてるとしかおもえないパワンが、
愚直にシャヒーダーをおくりとどけようとするから
旅のとちゅうで であうひとたちは ふたりに協力したくなる。

なんとかパキスタン国境をこえたふたりは、
パスポートとビザをもっていないことから
スパイとしてうたがわれ、警察におわれる身となる。
ふたりをたすけたのが、フリーライターのナワーブで、
彼はふたりの旅の目的をしると、SNSに記事をアップして、
インド・パキスタン両国民へ協力をよびかける。
伝統的になかのわるいインドとパキスタンは、
おたがいにきらいあっているひとたちがいるいっぽう、
なかよくやっていきたいとねがうひとも たくさんいる。
おおくのひとの善意にささえられ、
シャヒーダーはようやくふるさとの村にたどりつく。
ラストは圧巻の大団円だ。
パキスタンのひとたちは、
インド人である パワンの勇気ある行動をたたえ、
国境警備隊に圧力をかけ、パワンの出国を実現させる。
インドへはいろうとするパワンに
シャヒーダーは はじめて声をあげ「おじさん」とさけぶ。

となりの国なのになかがわるいといえば、
いまの日本と韓国があたまにうかぶ。
国のおえらがたは、おたがいに不信感をもっていても、
民衆レベルまで にくしみをひきずらなくてもいい。
「バジュランギおじさん」は、実話ではないそうだけど、
おなじようなはなしが
日本と韓国のあいだにもうまれないだろうか。

posted by カルピス at 22:07 | Comment(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする