2019年10月19日

『ハイジが生まれた日』(ちばかおり)

『ハイジが生まれた日』(ちばかおり・岩波書店)

「ハイジ」といえば、
高畑勲さん・宮崎駿さん・小田部洋一さんがつくったアニメ、
ぐらいにおもっていたけど、もちろんそんなわけはない。
この本は、日本のアニメ史をおさえながら、
「ハイジ」がつくられた道すじをふりかえっている。
アニメとしては異例の スイスとドイツへのロケや、
たかい品質をたもつための過酷な仕事風景など、
アニメファンのあいだではよくしられたはなしだけでなく、
具体的にどのような経緯をへて「ハイジ」がつくられたか。
「ハイジ」を企画した高橋茂人さんの幼年期からはじまり、
作画の部分にたどりつくまでに、本書の2/3もついやしている。
はじめにあげた3人がいなければ「ハイジ」はありえなかったけど、
すこしでも作品の質をたかめようとねばりつづけた
おおくのスタッフによる、献身的なはたらきがなければ、
「ハイジ」はうまれなかった。
プロデューサーの中島順三氏、音楽の渡辺岳夫氏、
そのほかにも背景・撮影・しあげなど、さまざまな部署の担当者たち。
ほんものをつくろうという、彼らの熱意がチームとしてたかまり、
「ハイジ」をすぐれた作品へとおしあげていった。
カット袋を配るために一晩で二百キロも運転したという制作進行も、セルの裏紙に埋もれて何日も徹夜で色を修正し続ける仕上げ検査も、疲れ果てて床に転がって仮眠をとる作画も、そして家に帰るのは着替えを取りに戻る時だけだったという高畑自身さえも、だれもが良いものを作っているという誇りと熱に浮かされ、ただひたすら自分の担当する仕事を少しでも良いものにしようとだけ考えていたのだ。

 第一話を見終わった制作の佐藤昭司は、衝撃のあまり言葉を失っていた。おじいさんのいる山へ行くというただそれだけのことが、これだけ見応えのあるドラマに仕上がるとは!

わたしは「ハイジ」のオープニングをおもいだす。
ホルンとヨーデルによるたからかな歌声と、
うつしだされる雪をかぶったアルムの山々。
たのしそうにスキップするハイジとゆきちゃん。
おおきなブランコから雲にとびうつるハイジ。
それまでのアニメとは、まったくことなった風景が
みるもののこころをとらえてはなさない。

「ハイジは本当に幸せな作品でした」と
演出の高畑勲さんはかたっている。
きびしい条件のなか、ひととときにめぐまれ、
奇跡のようにつくられた作品が「ハイジ」であり、
「ハイジ」とであえたわたしもまた しあわせだった。

posted by カルピス at 13:10 | Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする