2019年11月03日

『パーフェクト・ワールド』ケビン=コスナーがぴったりのはまり役

『パーフェクト・ワールド』
(クリント=イーストウッド:監督・1993年・アメリカ)

(以下、ネタバレあり)
仲間とふたりで刑務所を脱獄したブッチ(ケビン=コスナー)は、
たまたまはいった家で、8歳の少年フィリップを人質にとる。
そうなってしまったのも、もとはといえば、
仲間(テリー)のかるはずみなうごきが原因だった。
テリーは、やたらとバカをしでかす根っからの犯罪者で、
ブッチは刑務所にいるときからいやけがさしていた。
いっしょに脱獄したものの、テリーとこのままいるつもりはない。
3人で逃亡するうちに、テリーがフィリップに手をだすと、
ブッチはためらいなくテリーをうちころしてしまう。
じゃまものがいなくなり、ここからは
2人での逃亡へとステージがうつる。
かんたんにテリーをうちころしたからといって、
ブッチが冷酷な悪者かというと、どうもそうではないらしい。

ブッチはなにをかんがえているのかつかみにくい男で、
どこまで本気で、どこからがふざけているのかわからない。
フィリップに38口径の銃をもたせ、
自分がかいものをするあいだ、
車のなかでテリーをみはらせたりもした。
お店でごくふつうにふるまってかいものをしたり、
しりあった家族の車をぬすんでおきながら、
家族おもいの父親を本気でほめたりする。
脱獄し、逃亡をつづける身なのに、
なんであれだけおちついてうごけるのか。
にげているのに、どこかひとごとで、さしせまった危機感がない。
畑で夜をあかすときも、警戒をおこたらない、というしぐさはなく、
ただ気らくにぐっすりねむっている。
冷徹かとおもうとあたたかい人間性もみせるブッチに、
警察は彼の心理をよみきれない。

車での逃亡をつづけるうちに、
フィリップとブッチは だんだん気もちがつうじあうようになる。
ブッチは、フィリップにとってたのもしいおじさんだ。
少年とおじさんがいい関係になる映画はおおい。
最近みただけでも
『ビンセントが教えてくれたこと』
『グラン・トリノ』
そしてこの『パーフェク・トワールド』と、
ひとつのジャンルになっている。
少年が成長する過程で、いっけんまともにはみえないけど、
すじをとおしていきる つよい男が必要なのだろう。

ブッチは、たまたまはいった食堂のおばさんと
うまくいきかけているところをフィリップにみられる。
「キスしてたね。なぜキスを?」
「気もちがいい」
「お尻にキスしてたね?」
「その説明はむつかしい。バカだとおもったか?」
子どもからの質問だからといって、
ごまかさないところがいいかんじだ。

フィリップの家族はエホバの証人の信者で、
そのためフィリップは、これまでクリスマスも
ハロウィンも経験したことがない。
さいごのシーンで、ブッチを包囲した警察は、
フィリップの母親もつれてきた。
犯人を説得するための常套手段なのだけど、
ブッチはハロウィンをフィリップにゆるよう母親に約束させる。
ふつうの犯人が警察ととりひきするような条件、
たとえばにげるための車を用意させたりではなく、
ブッチが気にかけるのはぜんぶフィリップのことだ。
自分が子どものころ、親とのまともな関係がなかったブッチは、
フィリップに、しあわせになってほしいと ねがいをたくす。

ブッチがおさないころに家をでていった父親が、
アラスカから絵ハガキをおくっている。
「パーフェクトワールド」とは、
その絵ハガキにある、うつくしい風景のアラスカのことで、
ブッチはその絵ハガキをだいじにとっている。
脱獄し、人質としてのフィリップをつれ、
ブッチがどこへむかってにげるのかというと、
ほんとはたいしてあてがあるわけではない。
ブッチは、漠然としたイメージから、
とりあえずアラスカへむかっているものの、
本気でアラスカにたどりつけるとはおもっていない。
銃で腹をうたれ、もうにげるちからがのこっていないブッチは、
さいごにこの絵ハガキをフィリップに手わたそうとする。

ラストは、『グラン・トリノ』とよくにている。
イーストウッドの作品に特徴的な、ふかい余韻をのこす。

posted by カルピス at 22:31 | Comment(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする