「美味しんぼみたいなことを実際にやるとこうなる」(大北栄人)が、
いかにもデイリーポータルZらしく、わたしごのみのだった。
https://dailyportalz.jp/kiji/eat-the-real_thing
この記事は、デイリーポータルZ的であることにかけて、
ほかの記事よりも あたまひとつぬきでている。
「おれが本物のたけのこってやつを見せてやりますよ。明日7時、羽田空港に来てください」
と言われて京都までたけのこを食いに行かされる。『美味しんぼ』などのグルメ漫画でよくある展開である。
あれを実際にやってみるとどんな感じなんだろうか。気まずい空気になったりしないのだろうか。スケールダウンして体験してみた。
わたしは「美味しんぼ」をほとんどしらないけど、
「おれが本物のたけのこってやつを見せてやりますよ。
明日7時、羽田空港に来てください」
は、いかにもグルメ漫画にでてきそうなセリフだ。
グルメ漫画で「お前達に本物を食べさせてやる」と連れていかれる人たちってどんな感じなんだろう。
それをすこしスケールダウンし、内容をあかさずに、
編集部のメンバーでためしたのがこの記事だ。
京都までたけのこをたべにいくのはたいへんなので、
山岡士郎にコスプレした大北さんは、
タイ料理のマッサマンカレーを題材にえらんだ。
テキトーにつくったマッサマンカレーもどきを
なにもしらされていない編集部スタッフにまずたべてもらう。
「まあふつうにおいしい」とスタッフがいったら、
「こんなものがマッサマンカレーだと言うんですか」と
それまで不機嫌そうに席についていた大北さんが、
おもおもしく口をひらく、はずだった。
でも、大北さんはふきだしてしまい、ちゃんとセリフをいえない。
こんなかっこよすぎるセリフは、
まじめな顔をしてなかなかいえないという
予定してなかった事態に直面する。
それでもなんとか「ほんもののマッサマンカレーをたべさせるので、
12時40分に渋谷駅西口に来てください」とつたえる。
それからの展開が、マンガとちがうところで、
本来のマンガであれば「なんだと!?」だとか「わかったわ!」だとか、とにかくテンションの高いリアクションだ。
ところが実際に返ってきた言葉は安藤の「今じゃなきゃだめですか?」である。
そりゃ、そうだろう。ひとにはもうその日の予定があるのだから、
いきなり時間まで指定されてもこまる。
「みんなで一緒に行くんですか?」「一緒かどうかは別にどっちでもいいですけど一緒がいいですか?」おやおや!? こういう会話は美味しんぼにはないぞ!
明らかにみんな乗り気でない。当然だ。マッサマンカレーを食べたいなんてそもそも思ってないからだ。本物に対する欲求もない。筆者だってそんなに興味はない。この場のテンションが上がるわけがない。
(中略)美味しんぼが描かなった場面が次々に生み出される
「一人920円です」本物を食べに行かされたあとには割り勘がある。これも美味しんぼにはなかった描写である
美味しんぼが最も描かなかった部分、それがお会計である。本物を食べさせてやると言われて連れていかれた先で割り勘をするのだろうか。それともおごってくれるのだろうか。移動費はどうなる?
私達はすべて割り勘である。割り勘してこの『美味しんぼ』は完結するのである。
「美味しんぼみたいなことを実際にやるとそうとう気まずい」
という事実を、
こんかいのこころみにより、大北さんはさぐりだした。
目的地までの移動、せっかくお店へいっても、
自分がたべたいものをたべられない不自由、
お勘定のしかた。
じっさいにためしてみると、
「美味しんぼ」にえがかれなかった部分がいくつもあきらかになる。
そのどれもが、それぞれに雰囲気をおもくする。
編集部のスタッフに、記事の全体をあかさず、
まがいもののマッサマンカレーをたべてもらうことからはじめる。
つぎに、ほんものをたべるため、さむいなか お店へ移動して、
たいしてたべたいとおもってないマッサマンカレーを注文し、
わりかんで料金をはらう。
気がすすまないひとにとって、じつにありがたくないながれだ。
気まずい沈黙をこらえながら、大北さんにつきあって、
マッサマンカレーをたべにいったスタッフはおとなだし、
ひんしゅくをかいながらも、
事実をたしかめようとする 大北さんの姿勢がすばらしい。
こうして、じっさいにためしてみると
マンガではすどおりされていた問題点が、
いくつもうかびあがってきた。
この記事にかぎらず、デイリーポータルZは、
ばかばかしいとおもえる実験を、ストレートにつみかさねてきた。
デイリーポータルZらしい含蓄・ばかばかしさ・わらいが、
いいかんじでまざりあったのがこの記事であり、
大北さんのすぐれた表現力をたかく評価したい。