12歳の少年が主人公のロードノベルと紹介されていた。
主人公が少年のはなしも、ロードノベルもすきだ。
たのしみに本をひらく。
(以下、ネタバレあり)
ロードノベルというと、旅をつうじて
すこしずつかわっていくようすをえがいた、
どこかのんびりしたイメージをもっている。
でも この小説は、少年がおかれている状況がハードすぎた。
自分のペースで旅をするのではなく、
ずっと命をねらわれつづけての逃避行だ。
ただ、ゆきさきだけはきめている。
時代設定は1850年代の後半で、南北戦争がはじまるまえ。
アメリカじゅうが、奴隷制度をめぐってもめている。
主人公は、詐欺師の父親をもつ12歳の少年、チャーリーで、
彼もまた、父親と旅をしながら詐欺の相棒をつとめてきた。
父親の生き方を否定しながら、自分もまた
どうしようもなく よごれた人間だと おもいこんでいる。
チャーリーたち親子は、奴隷解放運動をすすめる伝道師から、
ニューヨークで4000ドルをだましとる。
父親は、チャーリーの上着に4000ドルをぬいこみ、
おってをごまかそうとしたものの、
チャーリーをにがしたところで自分はころされてしまう。
ひとりぼっちになったチャーリーは、
服にぬいこめられた4000ドルを、
もともとつかわれるはずだったミズーリ州の教会へとどけるときめ、
困難なひとり旅を ニューヨークからスタートさせる。
さきほど「状況がハードすぎた」とかいたのは、
この時代のアメリカは、奴隷制度をめぐり
南部だけでなく、全土が混乱した状況におちいっていたからだ。
道理はとおらず、ちからをもったものが、無理をとおす。
チャーリーは、白人なのに、黒人だといったんきめつけられると、
そのながれから のがれられなくなる。
身分証明書が正式でないと いいがかりをつけられ、
奴隷としてとらえられたうえに、奴隷市場で競売にかけられる。
ただ、そんなめちゃくちゃな世のなかにも、
少数ながら ただしく生きようとするひとたちもいる。
チャーリーは、旅さきでであったひとたちにたすけられながら
西にむかう旅をつづける。
おってはきわめてしつこく、いつまでもチャーリーをおいかけてくる。
4000ドルをねらう二人組、奴隷商人、奴隷制度賛成者たち。
いくつものグループが、それぞれにちがう理由から
チャーリーの命をねらいつづける。
さいごの銃撃戦は壮絶だった。
敵も味方も、どんどん銃弾にたおれていく。
チャーリーもギリギリのところまでおいつめられ、
相手を銃でうちころさなければならなかった。
まだ12歳の少年なのに。
自分のためにおおくの命がうしなわれたかなしみと、
人をころしてしまった罪悪感に、
チャーリーはこころがこわれそうになる。
ながく壮絶な旅は、この時代に生きるものにとって、
さけてとおれない必然だった。
チャーリーは、ボロボロになりながら、
ようやく目的地の教会にたどりつく。
父親がだましとった4000ドルを、本来の目的である
奴隷解放運動につかうよう 責任者であるモンゴメリー氏にわたす。
チャーリーは、自分がなしとげたことをほこりにおもいつつも、
けして手ばなしでよろこびにひたってはいない。
ぼくのいるべき場所はどこなんだろう?それはどこにあって、どうすればそこに行けるんだろう?その問いかけは大きすぎた。今の彼にはとても答えられそうになかった。
チャーリーは、ビールを飲み、葉巻を吸い、ベンチの上にのせた片脚を折れていない方の腕で抱え、赤と金と白と青の激しい閃光が空いっぱいに広がるのを眺めた。彼のそばにはそんな騒ぎにも動じないストレンジャー(いっしょに旅をしてきた馬)がいた。
チャーリーは、タフな旅にもかかわらず、
つよく、ただしく、やさしいこころをうしなわなかった。
これからもゆくさきざきで、ひとに愛され、
仲間としてしんじられ、いちにんまえにそだっていくだろう。
チャーリーの旅をおわりまでよみおえたとき、
おもくるしかった緊張がとけ、わたしもようやくひとごこちがついた。