あのトマス=ハリスの新作で、
帯には
『ハンニバル』よりも異常な猟奇殺人者
『羊たちの沈黙』を超える美貌のヒロイン
とある。
まあ、トマス=ハリスなのだから、
そうもちあげるしかないのだろうけど、
よんでいても、よみおえても、あまり満足をかんじない。
高見浩さんによる訳なのに、文章がゆるく、
高見さん、いったいどうしたの?となんどもおもった。
あるお屋敷にかくされた金庫をめぐるはなし。
金庫のなかには爆薬がしかけられていて、
へたにあけようとすると、すぐに爆発をまねく。
その金庫をねらうのが、「猟奇的殺人者」のシュナイダーなのだけど、
レクター博士とくらべると、いかにもこものであんまりこわくない。
タイトルになっている「カリ・モーラ」は25歳の女性で、
故郷のコロンビアにいたころ、
ゲリラのグループとくらした過去をもつ。
ゲリラ戦の知識と実践をたたきこまれ、
銃器のあつかいにもすぐれている。
金庫をめぐるやりとりでは、彼女のたかい戦闘能力がいかされる。
元ゲリラ、という彼女の設定はおもしろいのに、
まわりの男たちがシャキッとしないので、
彼女の魅力をいまいとつひきだせなかった。
味方の男たちは、いきがるわりには実行力がともなわず、
かえって彼女の足をひっぱっている。
シュナイダーには、「猟奇的殺人者」として、
レクター博士のような存在感が期待されたけど、力不足だった。
悪役がたいしておそろしくなければ、
ものがたりにリアルな恐怖をもたらせない。
レクター博士のような しっかりした悪役が、
こうした作品にはどれだけ大切か、
『カリ・モーラ』は反面教師としておしえてくれる。
ついこのまえピエール=ルメートルの『わが母なるロージー』をよみ、
ゆるみのない文章と圧巻のラストに、
ふかい満足をあじわったばかりだ。
『カリ・モーラ』にも、おなじレベルのしあがりをのぞんでいた。
トマス=ハリスならまちがいないだろうと 期待していたのに、
ざんねんながら肩すかしをくった。
『わが母なるロージー』の本文は212ページしかない。
『カリ・モーラ』は、その倍ちかくあるのに、
内容の密度がともなわず、415ページあるだけにおわってしまった。