『とにかくうちに帰ります』について。
この本のなかに、「小規模なパンデミック」
というはなしがおさめられている。
主人公がつとめる会社に、
インフルエンザがしだいにひろがっていく。
さんざんウイルスをまきちらかす社員がいて、
でも予防についてのまわりの反応はにぶく、
消毒やマスクはエチケットになっていない。
インフルエンザはカゼの一種みたいにおもわれがちで、
すこしぐらい症状がでていても、
ガッツで仕事をつづけるのがえらい、と
とくにふるいタイプの人間はおもっている。
わたしは、自動車学校で大型免許をとるとき、
インフルエンザでもやすまかなった、と
得意そうにはなす教官にならった。
どんなにセキがひどくても職場にでつづけて、
なおったころにはアバラ骨が2本おれていた、
というのがこのひとの自慢だった。
新型コロナウイルスにより、
インフルエンザもまたウイルスの病気であり、
感染がうたがわれたらやすむのが、
社会全体の共通認識になるだろうか。
主人公の鳥海早智子がインフルエンザにかかり、
一週間やすんで会社にでてみると、
何人かは休んでいるんじゃないかという予想を裏切って、全員が出社していうrことに少し驚いた。(中略)田上さんは、うーんと唸って、大人はけっこう見た目だけじゃしんどうかどうか判断できないからなあ、と困ったように天井を見上げた。(中略)外のコンビニなどに昼ごはんを買いに出て手も洗わない人、げっほんげっほん咳をしながら、それでもマスクをせずに喋り続ける人、体がだるいけれども忙しいんで来なくちゃー、と病気自慢をする人など、誰一人として、自分の問題として気にしていそうな人はいない。そういう社風なのである。
次の日に出社すると、前日の昼休みに咳をしていた江田さんが休んでいた。(中略)おれの友達でマスクを調達できる奴がいるから安く売ろうか?と営業の山崎さんが誰かにはなしかけているのをいらいらと耳にする。山崎さんは今日も、あーだりー、だりーだけどすっげー忙しいし、と誰彼かまわずアピールしている。だるいという自己申告の上、軽い咳まで始めたが、マスクをしたり手を消毒する気配はない。(中略)
帰りにドラッグストアに寄ると、マスクが売り切れていた。
次の日に出社すると、社長が休んでいた。(中略)社内での予防はこれで、それぞれの良心にますます依存することになってしまった。
次の日に出社すると、営業の河谷君が休んでいた。(中略)
そのうち河谷君もおかしくなるだろう、と私が予想できていたのは、河谷君の席が山崎さんの隣だったからだ。(中略)
午前中には常内常務のアレンジによるものかどうかはわからないけれども、社員は互いに離れて仕事をするように、という通達もあった。
土日を挟んで出社すると、休みかと見間違うほど、社員がいなくなっていた。(中略)
社内の全フロアを見に行ったが、会社にきているのは、私と浄之内さんと山崎さんだけのようだった。
そういえば浄之内さんはほんとになんともないみたいだね、と言うと、浄之内さんは、やっぱり自転車通勤だからじゃないですか、人ごみにいなから感染のリスクが低いんですよ、と事も無げに答えた。
コロナのあとにはやるのは、自転車通勤ではないか。