2020年05月03日

『あまからカルテット』(柚木麻子)

『あまからカルテット』(柚木麻子・文春文庫)

中学の同級生だった4人をめぐる連作短編集。
たべものをきりくちに謎をといていく、
柚木さんおとくいのスタイルだ。
おもしろくよめるけど、この路線はもういいや、と
途中でやめそうになっていたけど、
おしまいの短編である「おせちでカルテット」
がすばらしかった。

料理があまりできない薫子のもとに、
元旦をめがけ、鹿児島から姑がやってくることに。
りっぱなおせちを用意して、姑をみかえそうと、
3人の仲間に相談し、それぞれが一段ずつ、
おせちを分担してもってくるよう手はずをととのえる。
大晦日の夜にあつまって、元旦にぴったりまにあうはずだったけど、
そううまくものごとはながれない。
大晦日の夜からふりはじめた大雪のため、
3人はそれぞれの事情で薫子のマンションへむかえなくなる。

4人とも、いったんは絶体絶命のピンチにみまわれた。
薫子は、雪をみこしてはやく上京してきた姑にいびられる。
スタジオにいた料理研究家の由香子は、
テレビ番組用のおせちづくりを、あと5時間で、とたのまれる。
化粧品販売のチーフをつとめる満理子は、
きゅうな残業がこじれて倉庫にとじこめられる。
雪でうごけなくなった咲子は、車でとおりがかった元彼にひろわれて、
いっしょに旅館のひとへやですごすことに。
このバタバタした状態を、どう回収するんだろう。
なげだしかけていた この本への興味がつながった。

アクシデントがおとずれないまでも、
4人とも自分がおかれた状況に、いきづまりをかんじていた。
全力で難問にたちむかった体験をえて、
そのもやもやが、みごとに解決され、
全員が「めでたしめでたし」のハッピーエンドをむかえる。
それぞれのピンチをきれいに解決し、
まえよりもいい状況へもっていけたのは、
彼女たちが全力をかけたからだけど、
すべてをアレンジしたのは、
もっとおおきな「神の手」ようにおもえる。
ものごとは、とりつくろうと、ジタバタあがいたところで、
けっきょくのところ、おちつくべきところにおちつく。

酒井順子さんの解説がまたすばらしい。
女子校そだちの酒井さんは、
女ともだちのありがたさとむつかしさをよくしっている。
 女の友情には、恋愛と同様に、山と谷があります。「あまからカルテット」の四人組のように学生時代からの仲良しでも、時には友情に波風が立つことがある。(中略)
 しかし女性の友情というのは、非常に柔軟性が高いのです。様々な経験を積むうちに、仲良しグループの一人が色ボケ状態とか社畜状態になっても、他のメンバーは「ま、一時的なことでしょう。しばらくしたらこっちに戻ってくるに違いない」と、余裕をもって構えることができるようになってくる。

 友情を通じて様々な問題を乗り越えていく彼女達ですが、しかし四人の友情ストーリーは、これで終わりではないのだと私は思います。長い女の人生を考えると、四人の場合やっと第一楽章が終わったくらいのところではないか。
 なぜなら、女の友情ストーリーが最も激しい転調を迎えるのは、これからだから。(中略)
 四人にも、まもなく共にカルテットを奏でることが不可能になる時が来ることでしょう。しかしカルテットというのは、一人一人がソロとしても活躍できるほどの個性を持つ人の集まりだからこそ、成立するもの。たとえ友情の中断期間があっても、四人はその間にまた、一人ずつ異なる成長を遂げることでしょう。
タグ:柚木麻子

posted by カルピス at 10:36 | Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする