バゲットのおいしいパン屋さんがでてきた。
あつかうパンはバゲットのみ。
日本にほんもののフランスパンを、と
フランス人がひらいたお店だ。
レジに立っていると、宵闇のなかをひとり、またひとりと主婦や学生や身なりのいい老人が店を訪れて並びはじめる。(中略)「明日の朝、おいしいパンを食べられる」という静かな喜びだけがそこにある。
やきたてのパンはたしかに魅力的だ。
そのなかでもフランスパンは独特のにおいがする。
そして、「明日の朝」ではなく、
できるだけはやくたべたほうがおいしい。
パンはもともと保存食としてつくられるようになったのだから、
やきたてをありがたがるのはルール違反かもしれない。
でも、そばやうどんが「うちたて」に価値をおくように、
パンもまたやきたてのほうがずっとおいしい。
わたしがこれまでにたべたバゲットのなかでは、
モロッコのものがいちばんおいしかった。
朝はやくお店にいって、やきたてをわけてもらったものは、
パンだけでたべても じゅうぶんおいしかった。
バターをぬれば それだけでごちそうだし、
チーズをはさめば りっぱなサンドイッチだ。
フランスでも もちろんバゲットをたべたけど、
あくまでもおかずといっしょにたべるパンであり、
パンだけをたべても満足、とはならなかった。
最近になって椎名誠さんの本でみかけ、ふかく納得したのは
ワインのつまみにバゲットがぴったり、という発見だ。
ワインというと、なにとあわせるのがいいか、あれこれいわれるけど、
シンプルにフランスパン、というのは、日本人らしい気づきといえる。
インドシナの国々、ベトナム・ラオス・カンボジアは、
フランスの植民地だったことから、いまでもパンがよくうられている。
そして、フランスの文化をうけつぎ、
フランスみたいなパンがたべられる、
とガイドブックにはかかれているけど、
じっさいはそれほどおいしいものではなかった。
やきたてをたべる機会がなかったからかもしれない。
ものすごくおおきな2つの袋にパンをぎっしりつめこみ、
バランスをとりながらバイクではこんでいる場面をよく目にした。
あんなにおおざっぱなあつかいをしていては、
パンの繊細な味はたもてないような気がする。
メンのおいしさにくらべたら、パンの味はぐっとおちる。
いずれにしても、コロナがおさまらなければ
どこの国へも気らくにはいけない。
自由に旅行できるのが、どんなにすてきなことだったかをおもう。