(西部謙司・株式会社カンゼン)
税別1900円は、けしてやすくないけど、
西部さんの本なので興味をひかれる。
めくっていると、
アスレティックだけでなく、マルセイユやリーズもフットボールへの情熱がとぐろを巻いているような街だ。クラブへのありあまる愛情を注ぎながら、何ら見返りを得られず、それでも無償の愛を捧げる人々がいる街。
という文章をみかける。
「フットボールへの情熱がとぐろを巻いているような街」。
なんてすてきな文章だろう。
西部さんの本をよむよろこびは、
こうした文章にあちこちでふれられるところにある。
こんな表現をみかけたら、もうかうしかない。
この本は、世界の強豪クラブについて、
それぞれの哲学という視点からまとめてある。
強豪クラブを、まずは7つに分類してみせ、
そのあとひとつひとつのクラブについて分析していく。
「図鑑」というほど図はおおくないけど、
「いったものがち」なにおいをかんじる。
サッカーは、ただしさよりも、結果がおもんじられる競技だ。
・常勝クラブ
・”ザ哲学”クラブ
・港町クラブ
・ライバルクラブ
・成金クラブ
・小さな街の大きなクラブ
・名将クラブ
1人の選手、1人の監督、1人のオーナーがクラブの歴史を変え、そこからクラブの性格が定まるという場合が意外と多いようです。一方で、そのクラブのある地域、文化、宗教に影響を受けていることもあります。それぞれのクラブには歴史があり、香りがあるのです。
西部さんの本は、単純によみものとしてもおもしろい。
これまでなんどもかいてきたけど、膨大なサッカー世界が、
西部さんの頭のなかでよく整理されているからだろう。
そしてなによりも、文章がこなれていて、
西部さんならではのことばづかいがさえている。
こういう本についてかくときは、
感想よりも、いい文章の引用におわりがちだ。
(レアル・マドリーは)次々とスター選手を獲得していきます。ポジションや役割の重複もお構いなし、その時の旬な選手をどんどん補強しました。戦術やバランスはほとんど考えていないので、補強というよりコレクションです。しかし結果的に5連覇を達成した。理屈からすると間違っているようでも結果が出ていました。(中略)よくわからないけれども、これで勝てるということはわかったわけです。
「よくわからないけれども、
これで勝てるということはわかったわけです。」
ずいぶんとぼけたいいまわしで、
そんないいかげんさがまかりとおるのが、
サッカー業界の不思議だ。
才能あふれるメッシに依存せざるをえないバルセロナは、
バルセロナらしくパスをつなぎ、メッシがとどめをさすうちに、
育成からたたきこむクラブのスタイルが しだいにこわれていく。
メッシは歴代スターのようなエゴの衝突ではなく、あまりにも存在感が大きくなりすぎたためにバルサが培ってきた哲学が侵食され、危機に直面しているという、どうしようもない種類の問題なのだ。
勝つためにはメッシシステムを作ってしまうのが合理的だ。しかし、そうするとどんどんバルサスタイルから離れてしまう。
ジダンは除外するには大きすぎる才能で、同時に好きにやらせるほか使いようのないタイプだった。
チャヴィ、イニエスタ、リオネル・メッシは決して網に捕獲されない小魚のようだった。
7つに分類したからといって、
それでなにがどうなるわけではない。
でも、これまでにない視点からの分類は、
まったくあたらしいきりくちであり、
よみものとして じゅうぶんたのしめた。
クラブの歴史について、こまかくふれてあるので、
どんななりたちなのかを理解するにもたすけとなる。
趣味と実用をかねた一冊としておすすめしたい。
とはいえ、このような本に興味をひかれるのは、
かなりマニアックで、ニッチなひとかもしれない。
わざわざそんなタイプのひとにむけ、
あえて本書にとりくんだ西部さんは、
サッカーをとりまく世界がおもしろくてたまらないのだろう。