2021年01月05日

『マナーはいらない 小説の書きかた講座』(三浦しをん)

『マナーはいらない 小説の書きかた講座』
(三浦しをん・集英社)

著者の三浦しをんさんは、
コバルト短編小説新人賞の選考委員をつとめており、
ここを踏まえると、もっと自由に文章で表現できるようになるかもだぜ!!」というポイントも確実にある気がします。

と、投稿するひとの参考になるよう、
小説のかきかたを連載したのが本書となっている。
例にあげた文からわかるように、そして帯に
爆笑”しをん節”で綴る「小説の書きかた」エッセイ!

と あるとおり、しをんさんらしいかたりくちなので、
かたぐるしい教本とならず、気らくに、さらさらとよめる。

タイトルが、「マナーはいらない」となっているのは、
アドバイスを22皿のフルコース料理にたとえているからだ
(さいごは食後酒でしめくくられている)。
とちゅうに「お口直し」も4回あり、小説のおさえどころを、
お腹いっぱいになるまで堪能できる構成となっている。
応募作品によくみられる いまひとつな点を例にあげ、
自作をかくときにどうやってとりくんだかもあきらかにしつつ、
読者にわかりやすくコツをつたえている。

たとえば、「描写と説明」のお皿では、
しをんさんのデビュー作である
『格闘する者に○』のときの体験をあげ、
 外はいいお天気だというのに、私はこうして足の痺れと戦っている。

が「描写ではなく説明」になっている、と
エージェントの方に指摘されたという。
そこでしをんさんは、
 外は五月晴れというのが本当にふさわしい、「宇宙直結」のお天気だというのに、

とかきあらためている。
できるだけ具体的に、とわたしはこころがけているつもりでも、
「よいお天気」は なにもひっかからずにつかってきた。
「描写ではなく説明」にならない、は
わたしにとってありがたいアドバイスだ。

もっとも、わたしは小説をかく気などまったくなく、
この本も、よみものとしてのおもしろさを期待してもとめた。
アドバイスをする側のしをんさんは、
投稿するひとたちに、つねにあたたかな視線をおくり、
背中をおし、たのしんで小説をかいてほしいとねがっている。
うえから目線のアドバイスはなく、いずれのお皿も
自分の体験から わかりやすくのべられていて、
(きっと)小説をかくひとたちの参考になるだろう。
それにしても、いくつもののハードルをのりこえ
投稿せずにはおれないという熱意を わたしはすばらしいとおもう。
ややこしいことにいろいろ配慮しつつ、
「それでも小説がかきたい!」という情熱がとおとい。

小説をよむときに、とくにひっかからず
すらすらとさきへすすめるのは、
ものすごくたくさんのことがらについて、
注意ぶかくおさえられている結果なのが、本書をよむとわかる。
以前、女子高校生がぼろぼろのスーパーカブにのるはなしを
「おためし」の無料部分だけよんだ。
自分に自信がもてず、友だちもいなかった女の子が、
スーパーカブを手にいれてから、
仲間ができ、あたらしいことへ挑戦していく。
とかくと、すごくおもしろそうなのに、
よんでいて、ぜんぜん素材がいきてない。
いまおもえば、不自然な点がおおい文章にわたしはひっかかり、
さきへすすむ気をうしなったのだろう。
「ルールはいらない」とはいえ、
小説をかくうえでの最低限のルールがまもられていないと、
読者が安心してよみつづける文章にはならない。

とはいえ、文章術ではなく、「小説の書きかた」として
しをんさんは本書にとりくんでいる。
こまかなテクニックよりも、小説へむけるエネルギーが大切だ。
小説をかくよろこびを、しをんさんはしりつくしており、
たいへんさにくじけずに、たのしんでかいてほしいという
投稿者への愛にあふれたテキストとなっている。
小説をかきたいひとにも、かく気はないけど、
文章に興味のあるひとにも、おすすめの一冊だ。

posted by カルピス at 22:11 | Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする