『マイレージ、マイライフ』
(ジェイソン=ライトマン:監督・2009年・アメリカ)
雇用主にかわり、その企業ではたらいているひとに
クビをつげるのがビンガムの仕事だ。
突然の解雇をつきつけられると、
ほとんどのひとがとりみだし、悪態をたれる。
その修羅場を、いかにのりきるかが
プロとしてビンガムにもとめられている。
つめたすぎない対応で、でも相手に現実を理解してもらう。
ビンガムは仕事がら、アメリカ全土をとびまわっており、
1000マイルを達成するのを目標としている。
映画には、コンパクトにつめられたカバンをさっそうとひいて、
空港から空港へ、そしてホテルへと、
気がるにうごきまわるビンガムの姿がよくでてくる。
ビンガムにとって空港やホテルは、
特別な場所ではなく、なれしたしんだ自分の居場所となっている。
新型コロナウイルスで、旅行にでられなくなったわたしは、
じつは映画のストーリーよりも、空港での景色や、
くつろいで飛行機にのるビンガムをうらやましくみていた。
飛行機をつかうからといって、
いつもスムーズにことがながれるとはかぎらない。
というか、飛行機にはアクシデントがつきもので、
天気や機体の整備、空港のストライキ、
理由がしらされないおくれなど、日常茶飯事といってよい。
わたしなんかは、やすい航空会社をつかうせいか、
出発時間のおくれは いつものことで、
スムーズにいくと かえっておどろいてしまう。
予定外のまち時間をつげられると、
たいくつして時間をもてあましてしまうけど、
ビンガムだったら クラブ会員の特権を最大限にいかし、
突然うまれた空白の時間をたのしむのだろう。
2年まえのタイ旅行では、予定していた飛行機が7時間30分おくれ、
あわせて11時間を関西空港ですごさなければならなかった。
航空会社から、軽食のクーポンがもらえたけど、
そんなものぐらいで11時間のひまはつぶせない。
空港内をあちこち散歩し、iPodをきき、本をよむ。
意識がマヒするのか、そのうちまつことになれてきて、
2、3時間などすぐにたってしまうほど、
まち時間の達人となっていた。
日本からの出発が半日おくれると、
とうぜんバンコクにつくのもそれだけずれこみ、
予約していたホテルにはいれなかった。
つかれたからだで空港からカオサンゆきの路線バスにのり、
ゲストハウスに朝はやくチェックインした。
屋台でたべた食事でお腹をこわし、
下痢と熱にひとばんくるしむおまけまでついていた。
そんなアクシデントをふくめて「旅」なのであり、
すぎてしまえば たいていのことはおもいでとなる。
空港と安宿を、もういちど日常の場としたい。