2021年03月19日

『人新世の「資本論」』(斎藤幸平)経済成長しながらでは気候変動をふせげない

『人新世の「資本論」』(斎藤幸平・集英社新書)

「SDGs(持続可能な開発目標)」や、脱炭素ということばを
よく耳にするようになった。
二酸化炭素の排出量をへらさなければ、気候変動がおきてしまう。
100年さきのはなしではなく、危機はすでにはじまっている。
具体的には、2030年までに二酸化炭素排出量をほぼ半減させ、2050年までに排出量をゼロにしなくてはならないのである。

ひとは、二酸化炭素をへらしたいといいながら、
いまの生活の質はおとしたくないので、
経済を発展させながらでも、二酸化炭素の排出量をへらせるという、
耳ざわりのいい論理にすがりたくなる。
しかし著者は、成長をあきらめなければ、
気候変動をふせげないと、こまかな数字をあげて説明する。
なによりも、資本主義というシステムをとるかぎり、
経済成長をとめられないことが、いくつものデーターからあきらかだ。
そこで著者は、『資本論』後にマルクスがたどりついた
「コモン」という概念を紹介している。
環境や資源を公共のものとしてとらえる「コモン」は、
資本主義にはできない 脱成長を可能にする。

この本をよんでいておもいだすのは、
梅棹忠夫さんの『わたしの生きがい論』だ。
空気も水も食料も、地球の環境は有限であることがわかってきた。
すぐそこにおおきな壁がそびえているような状況で、
その壁にむかってアクセルをふむのか、
それともなにかブレーキとなる方法があるのか。
梅棹さんは、進歩で解決できるとおもうのは あまい、とかいている。
そうやって知恵をしぼることが、問題をより複雑にするという。
努力や発展で、地球の危機をすくえる段階はもはやすぎた。
いまできるのは、がんばってなにかを生産するのではなく、
反対に、なにもしないで、アクセルから足をはなすことだ。

ゆたかにくらしている先進国にたいし、
じゅうぶんな教育をうけられず、
電力や水もかぎられているひとたちが 世界にはまだたくさんいる。
こうした状況にあるひとには、これからも発展が必要だ。
一見すると、そのためには膨大な資源が必要におもえるけど、
資源を公平に分配すれば、いまの人口でも共存できると著者はいう。
現在、電力が利用できないでいる人口は13億人いるといわれているが、彼らに電力を供給しても、二酸化炭素排出量は1%増加するだけだ。そして、1日1.25ドル以下で暮らす14億人の貧困を終わらせるには、世界の所得のわずか0.2%を再分配すれば、足りるというのである。

フランスの黄色いベスト運動は、
環境に負担をかける企業の活動を実力行使でとめている。
日本では、こうした運動に拒否反応があるけど、
市民運動として、行政に意見をだしていくうごきは
あちこちで耳にするようになった。
著者は、バルセロナの市民運動を例にあげて
社会運動が国境をこえ、世界とむすびついているという。
これまでうけ身でいることのおおかった市民が、
自分たちで声をあげはじめている。
ただ、そうはいっても、私たちは資本主義の生活にどっぷりつかって、それに慣れ切ってしまっている。本書で揚げられた理念や内容には大枠で賛同してくれても、システムの転換というあまりにもおおきな課題を前になにをしていいかわらかず、途方に暮れてしまう人が多いだろう。(中略)
 しかし、ここに「3.5%」という数字がある。なんの数字かわかるだろうか。ハーヴァード大学の政治学者エリカ・チェノウェスらの研究によると、「3.5%」の人々が非暴力的な方法で、本気で立ち上がると社会が大きく変わるというのである。

 資本主義と気候変動の問題に本気で関心をもち、熱心なコミットメントをしてくれる人々を3.5%集めるのは、なんだかできそうな気がしてこないだろうか。(中略)そうした人たちが、今はさまざまな理由から動けない人の分まで、大胆な決意とともに、まずアクションを起こしていく。
 ワーカーズ・コープでもいい、学校ストライキでもいい、有機農業でもいい。地方自治体の議員を目指すのだっていい。(中略)
 すぐにやれること・やらなくてはならないことはいくらでもある。だから、システムの変革という課題が大きいことを、なにもしないことの言い訳にしてはいけない。一人ひとりの参加が3.5%にとっては決定的に重要なのだから。

 これまで私たちが無関心だったせいで、1%の富裕層・エリート層が好き勝手にルールを変えて、自分たちの価値観に合わせて、社会の仕組みや利害を作りあげてしまった。
 けれども、そろそろ、はっきりとしたNOを突きつけるときだ。冷笑主義を捨て、99%の力を見せつけてやろう。そのためには、まず3.5%が、今この瞬間から動き出すのが鍵である。その動きが、大きなうねりとなれば、資本の力は制限され、民主主義は斬新され、脱炭素社会も実現されるに違いない。

posted by カルピス at 20:22 | Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする