ラジオをきいていたら、
ワーグナー作曲『ワルキューレ』がかかった。
映画『地獄の黙示録』でつかわれた曲で、
ヘリコプターのむれが、ベトナム人の村におそいかかる場面と、
なにやら不気味な『ワルキューレ』のリズムがぴったりだった。
映画の印象があまりにもつよいので、『ワルキューレ』をきくと、
ヘリコプター軍団がとんでいるときの音楽にしかきこえない。
あの場面で『ワルキューレ』より効果的な曲はないような気がするし、
あの場面のために『ワルキューレ』がつくられたようにおもえる。
はじめに『ワルキューレ』をきいたのが『地獄の黙示録』だったので、
『ワルキューレ』がヘリコプター軍団にすりこまれてしまった。
『がんばれ!ベアーズ』につかわれた「カルメン」も、
あのだめチームのためにつくられた曲にしかきこえない。
あとで、「カルメン」がクラッシックだとしっておどろいた。
これまた曲と映画がぴったりあっていたので、
わたしにとっての「カルメン」は、ベアーズのためにつくられた曲だ。
『スティング』の『ジ・エンターテイナー』も、
粋でチャーミングな作風とよくあっている。
もしべつの曲がつかわれていたら、
映画の雰囲気がずいぶんかわるだろう。
あたらしく映画用のテーマ曲をつくるのではなく、
まったく別ジャンルから曲をもってくるのがおもしろい。
ヘリコプターに『ワルキューレ』、
ベアーズにカルメンをおもいついたひとは、
それだけで映画の成功を確信したのではないか。
意外性のあるくみあわせが、小説ではよくつかわれる。
たとえば『セーラー服と機関銃』は、女性高校生と暴力団という、
かけはなれたものをくみあわせて成功している。
でも、映画につかう音楽の場合、いくらかけはなれたからといって、
いい効果をだすとはかぎらない。
曲と映画の雰囲気に、親和性があると気づくかどうかだ。
あるものの本質を、音楽によってあぶりだす。
『ワルキューレ』にひそむ暴力性をかんじとり、
カルメンのにぎやかさに、ベアーズの精神をかぎつける。
似顔絵がうまいひとは、映画の場面をいかす、
効果的な音楽をおもいつきやすいかもしれない。