2021年04月29日

『ゴールドフィンチ』(ドナ=タート)ながさがたのもしい全4巻

『ゴールドフィンチ』
(ドナ=タート・岡真知子:訳・河出書房新社)

13歳のテオは、母親とメトロポリタン美術館をおとずれたとき、
テロ事件の爆発にまきこまれ、偶然1枚の絵を手にする。
母親が、いちばんすき、といっていた作品で、
歴史的・絵画的にも貴重な名画としてしられていた。
爆発でたおれた老人の手あてをしていたら、
その絵をもってくるようもとめられたのだ。
ケガによる意識の混乱からか、
絵をもってホービーをたずねるよう老人はいう。
テオはカバンにいれた絵とともに瓦礫のなかをさまよい、
ようやく美術館のそとへとのがれた。

美術館の絵をもちだせば とうぜん犯罪となる。
テロ事件の混乱がおちついてからは、
どうやって美術館に絵をかえそうかとテオはなやみつつ、
タイミングをはかりかねていた。
老人のうわごとに まきこまれたかたちであれ、
絵をもちだした正当な理由にはならないし、
絵には、手ばなしたくない不思議な魅力があった。
この絵をめぐり、さまざまな事件にテオはまきこまれていく。

全4巻というボリュームながら、あきさせないでよませる。
いったんはまってくると、ながさはそのままたのしさとなり、
わたしは、夜ねるまえに、酒をのみながらすこしずつよみすすめた。
よっぱらってよむと、あまり内容が頭にのこっておらず、
つぎの日に本をひらいたとき、何ページかを
もういちどよみかえすことになり、ますますはかどらない。
2021年の4月は、『ゴールドフィンチ』とすごした月として
わたしの記憶にのこるだろう。

絵をめぐるストーリーだけでなく、登場人物が魅力的だ。
出番は数ページしかないテオの母親について、もっとしりたかった。
だれにでもやさしく、都会的でチャーミングな女性。
なんでこんなにすてきなひとが、
人格破綻者のような男と結婚したのか不思議でならない。
のちにテオの相棒となるボリスもいい。
彼もまた、めちゃくちゃな父親にふりまわされてそだってきた。
言語についての才能があり、ロシア語やウクライナ語をあやつる。
成長してからは、裏社会を舞台にあぶない仕事につき、
おおくの金をうごかしながら、危険ととなりあわせで生きている。
それだけに、テオにはないちからをひめ、たよりになる男だ。
テオもボリスも、いったん酒(おおくはウォッカ)をのみだすと、
わたしだったら3回くらい死んでしまう量を口にする。
そのうえに麻薬や薬も日常的にきめこみ、ラリっている描写がおおい。
著者のドナ=タートは そうとうドラッグにくわしそうだ。

ものがたりは、ニューヨークからラスベガス、
もういちどニューヨークにもどってから、
アムステルダムへと、舞台をうつしながらすすんでいく。
絵をおいかける旅は、意外な結末をむかえ、
絵はおちつくべきところへもどされる。
テオは自分のおかしてきたあやまちをつぐないながら、
アメリカ各地をめぐりつづける。

わたしは「ゴールドフィンチ」(ごしきひわ)を、
ずっと5匹ヒワ、とかんちがいしていた。
足をクサリでとめられた5匹の鳥って、
なんだかややこしそうな絵だなーと。
ただしくはもちろん五色ヒワで、
テオがメトロポリタン美術館をおとずれる
最初の部分ですでに道をあやまっていたとは。
それでもさいごまでたのしくよめるのだから、
『ゴールドフィンチ』のおもしろさは はかりしれない。

posted by カルピス at 22:07 | Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする