2021年05月11日

『ふたりみち』山本幸久さんのもち味全開

『ふたりみち』(山本幸久・角川文庫)

67歳の野原ゆかりは、わかいころプロの歌手としてうたっていた。
数枚のレコードをだしながらも、ヒット曲にめぐまれず、
かろうじてうれたといえるのは「無愛想ブルース」という曲のみ。
ただ、シャンソン歌手としての実力はたかく、
なかでも「愛の讃歌」はフランスで勉強してきたとおもわれるほど
おおくのひとのこころをとらえる。
10年で歌手を引退してからのゆかりは、
函館でちいさなスナックをかまえ なんとかくらしている。
ある事情からお金が必要となり、期間限定の復活コンサートと称して
全国にちらばる5つの会場をゆかりはまわりはじめる。

67歳が主人公、というのはめずらしいけど、
そこに家出してきた12歳の少女、縁(ゆかり)がからんでくる。
ゆかりとしても、縁といっしょに旅をするのはたのしいし、
じっさいにたすけてもくれるので、アシスタントとして
いっしょにドサまわりの旅をつづけることになった。
縁の存在は、この小説にどうしても必要、というわけではないけど、
ひとりわかい子がでてくることで、ずいぶんはなしがいまふうに、
そしてあかるくなってくる。縁がいなければ、
ずいぶんちがった雰囲気の小説になっていただろう。

しかし、縁とまわる復活コンサートが なかなかうまくいかない。
たずねる先々で、それぞれの理由から
うたえないアクシデントがおきる。
主催者が認知症で、もともとコンサートなど計画されてなかったり、
とおくの国でおきた地震により津波警報がでて、
コンサートをひらけなくなったり。
ドサまわり旅は、東京の東久留米が最後のコンサート会場となる。

コンサート会場の病院には、これまでにまわった町や、
ゆかりがわかいころにかかわったひとたちが
せいぞろいするかのようにあつまってくる。
ものがたりじゅうにはりめぐらせた伏線を、
さいごでいっきに回収する大サービスだ。
ラストをもりあげるための、露骨な伏線だといやらしいけど、
そこは山本幸久さんなので、さわやかにしあげた。
67年を誠実に生きてきたゆかりは、
ゆたかな人間関係と、大切にしてきた歌へのおもいから、
さいごでいっきに大団円をむかえる。
もっとも、さいごのコンサートでもハプニングがおきて
ゆかりがうたう予定だった「愛の讃歌」はまぼろしとなった。
それでも結果的にはうまくいき、SNSもいかして
いくつものオファーをうけ、めでたしめでたしでおわっている。

はじめにかいたとおり、ゆかりの「愛の讃歌」は
おおくのひとのこころをとらえる。
まるで水戸黄門の印籠みたいに、
ゆかりが「愛の讃歌」をうたうたびに、
その場にいるだれもが感動し、その感動が
あらたな人間関係を生みだしていく。
この曲が、このものがたりの全体にかかわる重要な存在であり、
この曲をうたってきたことで、ゆかりはしらないうちに
おおくのであいをえたし、ちからをみとめられてもきた。
さいごの感動は、やはり「愛の讃歌」を
ふるいカセットテープできいたときにおこる。
一曲に、よくこれだけ意味をつめこんだものだ。
いくつもの伏線が、山本幸久さんの小説らしく きれいにきまる。

posted by カルピス at 22:16 | Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年05月10日

ヘッドコーチから監督へかわると かてなくなる現象

今シーズンのJ1リーグは、好調のチームと
いまひとつのチームとにはっきりわかれてきた。
成績不振から、監督が交代したチームもいくつかでている。
鹿島アントラーズはザーゴ氏にみきりをつけ、
チームOBの相馬直樹氏を監督にまねいた。
相馬新監督になってからのアントラーズは
3勝1わけで、まだまけてないそうだ。
こんなふうに、監督の交代がうまくいくといいけど、
なかなかすんなり結果がでないこともめずらしくない。

徳島ヴォルティスは、J2で昨シーズンまで指揮をとっていた
リカルド=ロドリゲス氏が浦和レッズへひきぬかれた。
J1に昇格した今シーズンは、スペイン人の
ダニエル=ポヤトス氏を監督にまねいたものの、
新型コロナウイルスの影響で、なかなかチームに合流できなかった。
監督がるすのあいだ、かわりに指揮をとっていたのが
ヘッドコーチの甲本氏で、ポヤトス監督にひきつぐまでの
10試合を、4勝2わけ4杯の成績でしのいだ。
この成績は、前回ヴォルティスがJ1リーグでたたかった
2014年をすでにうわまわるもので、3連勝も記録している。
監督不在の期間としては上出来といってよい。

4月15日に、ポヤトス氏がいよいよチームに合流し、
これから本腰をいれて監督のサッカーが展開される、
とだれもが期待していたことだろう。
しかし、現実はなかなかうまくいかないもので、
ポヤトス監督になってから、徳島はすっかり調子をおとし、
4連敗とまだかち点をあげられていない。
ふたたび甲本ヘッドコーチが指揮をとるわけにはいかず、
徳島ヴォルティスとしては判断がむつかしい状況だろう。

新監督がチームに合流するのをまっていたかのように、
かてなくなるのは、わりとよくみかける。
新監督がくるまでのつなぎとして、
チーム事情をよくしるヘッドコーチが指揮をとるので
チームがひとつにまとまりやすいし、
選手たちも必死にわるいながれをかえようとする。
しかし、新監督がくると、みぢかい時間で
まったくべつのサッカーをもとめられることもあり、
結果がでないと すべてがわるい方向にまわりはじめる。
いまの徳島ヴォルティスも、にたような状況ではないか。
ヘッドコーチのときのほうがうまくいっていたのでは、
ポヤトス氏としてはかっこがつかないし、
まわりだってどんな態度をとればいいのかこまってしまう。
選手たちにもまよいがでるだろう。
すべては新型コロナウイルスによるめぐりあわせとはいえ、
ポヤトス監督が気の毒というしかない。

posted by カルピス at 21:55 | Comment(0) | サッカー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年05月09日

教育芸術社がつくる音楽の教科書『MOUSA』には、ロックの系譜図がのっているそうだ

デイリーポータルZに音楽の教科書がでていた。
教育芸術社の『MOUSA』という教科書には
ロックの系譜図がのっていて、
アーティストやジャンルごとの関係性が
とてもよくわかるのだという。
https://dailyportalz.jp/kiji/rock-music-in-music-textbooks
ラジオの音楽番組をきいていると、
ブルース・リズム&ブルース・プログレッシブロック・AORなど、
きいたことはあるけど、じゃあ正確な意味はどうなんだといわれると、
よくわからない単語がよく耳にはいる。
『MOUSA』はロックを系譜図にすることで、
それぞれのジャンルが歴史的にどんな位置づけとなり、
その代表的なミュージシャンは、などものっていて、
すごくわかりやすそうだ。
ジャズとブルースがロックにどう関係しているのか、
なんていう疑問も、『MOUSA』をみればすぐわかる(はず)。

わたしは、こういう教科書をまっていたのではなかったか。
『MOUSA』は
ロックのページに限らず、高校を卒業しても手元に残しておきたい教科書であることを目指して編集しています。

というすばらしい方針のもとにつくられている。
「高校を卒業しても手元に残しておきたい」
とおもえる教科書が、ほかの教科にはあるだろうか。
ほしくなったので、さっそくアマゾンで『MOUSA2』を注文した。
まさかわたしが音楽の教科書をもとめるようになるとは。
ロックの時代的な位置づけが、
高校生の基礎的な知識となる意味はおおきい。
教育芸術社のラジカルな教科書づくりに期待したい。

ロックだけでなく、クラシックでも、
こうした系譜図がわたしには必要だ。
有名な作曲家たちは、だれがだれの影響をうけ、
どんなねらいのもとに、代表作となる曲をつくっていったのか。
わたしの頭のなかでは、有名な作曲家たちが、
脈絡もなくごちゃまぜになっているけど、
じっさいには、おたがいが影響をうけたりあたえたりしながら、
名曲の数々をつくりだしてきたことだろう。
それらが系譜図によって整理されたら
わたしの頭はずいぶんスッキリしそうだ。

本についても、こうした系譜図はつくれるだろうけど、
こちらはあるていどわたしにも土地勘があり、
自分で本をえらんでいけば なんとかなりそうな気がする。
とはいえ、わたしの本えらびは、かなりかたよりがあり、
たとえば時代小説にはまったく手をださない。
すべてのジャンルと代表作が系譜図になれば、
ガイドブックとして ちからになってくれるかもしれない。
なにごとも系譜図にするのは 画期的なアイデアにおもえる。

posted by カルピス at 21:25 | Comment(0) | 音楽 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年05月08日

デイリーポータルZの「お役立ち記事100連発!」が連休をささえてくれた

デイリーポータルZでは、連休ちゅうの企画として、
「2021GW特集! お役立ち記事100連発!」にとりくんでいた。
特集タイトルは「お役立ち記事100連発」ですが、正確には「役立つと見せかけてどうでもいい記事を読んでもらう100連発」ですので、役立たない前提でお読みいただくのがイラっとしないコツです。

「お役立ち」といっても、デイリーポータルZのことだから、
やくにたとうと、ほんとにおもっているわけではない。
とにかく量をだせば、あたらしいなにかがひらけるかも、
というちからづくの企画であり、なにがなんでも量、
というかんがえ方がわたしはすきだ。

デイリーポータルZは、ときどきこんなかんじの
内容はともあれとにかく量をだすよ!
という企画をうちだしてくる。
すごいなー、と感心するほど
どうでもいい記事のほうがおおいけど、
なかには量にたよったこういう企画でないと
とりあげにくい内容のものもある。
デイリーポータルZの底力をかんじる企画だった。
編集部の古賀さんが、118本をまとめ、推薦してくれている。
https://dailyportalz.jp/kiji/oyakudachi-osusume

よくこんな企画をおもいついたなーと感心する記事、
・椅子に座ると楽
・ちくわにちくわを詰めると野暮ったい
・木の匂いを嗅ぎながら炭酸水を飲むとほぼハイボール
・道を覚えると迷わない
・カルピスをカルピスで割ると濃い
・レタスはハンバーガーに挟めばたくさん食える
・外でスリッパを履くと訳アリ感が出てサボってるみたいに見えない

なかには
・ラーメンを食べるとちょっとやせる
https://dailyportalz.jp/kiji/ramen-diet
なんて、えっ!という記事があるし、

・においを抑えたいものは食パン袋に入れるといい
https://dailyportalz.jp/kiji/shokupan-fukuro-niowanai
と、ほんとにやくだつ記事もある。

ゴールデンウィークは、いつもながらすぐにおわってしまった。
やすみのあいだにみようとおもっていた映画も、
けっきょく1本もみられなかった。
そんな、パッとしないことしの連休を、陰ながらささえてくれたのが、
デイリーポータルZの「お役立ち記事100連発!」だった。

posted by カルピス at 17:37 | Comment(0) | デイリーポータルZ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年05月07日

ことしの冬は、インフルエンザ感染が画期的にすくなかった

2021年の冬で記憶にのこるのは、
なんといってもインフルエンザ感染のすくなさだ。
きょねんわたしはインフルエンザにかかり、
4日ほどねこんでいる。
はやいうちに処方された薬をのみ、
熱は38℃くらいしかあがらなかったけど、
それでも4日間はかなりくるしかった。
新型コロナウイルスとインフルエンザは
症状がよくにているというので、
ことしは絶対にインフルエンザにかかりたくないと、
予防注射を10年ぶりにうつ。
さいわい、インフルエンザにかからなかったし、
わたしのまわりでも、インフルエンザの話題をきかなかった。

1月にながれたインフルエンザについてのニュースによると、
今シーズンの流行は、直近5年平均の、1000分の1だったらしい。
毎年100万人くらい感染したのにくらべると、画期的なすくなさだ。
https://www.mixonline.jp/tabid55.html?artid=70646
以前だと、インフルエンザへの無理解から、
ちょっとくるしいカゼ、くらいにあつかわれていた。
インフルエンザくらいでやすむのはもうしわけない、
とかいって、熱があり、セキがでても仕事をやすまず、
やすまないことが、社会人の責任感、みたいにおもわれていた。
それが、新型コロナウイルスのひろがりで、
マスクと手の消毒があたりまえになり、
体調がわるければやすむのが マナーだ。
三密をさけ、ひとの移動がすくない生活もよかったのだろう。
新型コロナウイルスへの対応をとっていたら、
インフルエンザはぜんぜんひろまらない病気なのがわかった。

朝日新聞土曜日版beに、
「インフルエンザ、夏はどこへ?」
という記事がのった。
ののちゃんと藤原先生が、おしゃべりしながら
いろんな質問にこたえていくコーナーだ。
藤原先生によると、流行の時期は南半球と北半球とでちがい、
日本ではやっていないときは、南半球で流行がみられるらしい。
ひとの移動にともない、インフルエンザウイルスもうごく。
世界のどこかで 一年じゅうインフルエンザは流行しているという。
「患者は減るけどウイルスは残っているよ」
というのが藤原先生のまとめだ。
新型コロナウイルスも、どこかの国が感染をおさえても、
ひとのうごきがとまらないかぎり、いつでも流行がおこる。
新型コロナウイルスむけの対策が、
インフルエンザに有効だったように、
薬やワクチンにたよらなくても、
新型コロナウイルスを画期的におさえてくれるなにかが、
意外なところから発見されないだろうか。

posted by カルピス at 21:43 | Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年05月06日

2021年のゴールデンウィークをふりかえる

連休がおわり、きょうから平常どおりの生活にもどる。
ことしのゴールデンウィークをふりかえっておきたい。

なんといってもうれしかったのは、
川崎フロンターレが名古屋グランパスとの直接対決に、
2試合ともかったことだ。
1位と2位のチームが、2試合つづけてたたかうのはめずらしく、
試合数はまだシーズン全体の1/3とはいえ、
この2試合でどういう結果をのこすかにより、
両チームとも今シーズンのゆくえがおおきく影響されそうだ。
その大切な連戦で、4月29日はアウェイで0−4、
5月4日はホームで3−2とまさかの2勝をあげた。
守備がかたいと評判のグランパスをあいてに、
1試合目を0−4と完勝し、なか4日でむかえた2試合目にも、
3点をとったのだから、ファンとしては
ねがいながらも、まさかここまで、という最高の結果だ。

連休ちゅうのイベントとして、あるきの師匠をさそい
松江市の郊外から市内にかけて18キロをあるいた。
いつものように、お昼ごはんには、
バケットに大量のベーコンとチーズをはさんだサンドイッチをつくる。
赤ワインも2人で1本あけ、しっかりよっぱらった。
観光名所をかすめてあるいたときは、そこそこの観光客をみかけた。
島根と鳥取は、全国のなかでも感染者数がすくないので、
いま旅行にでかけるとしたら、山陰をえらびたくなるのではないか。
すれちがうひとは、みんなマスクをつけており、
わたしたちだけが「素顔」なのでうしろめたい気になる。
このまま条例や法律で、マスクが義務化されなければいいけど。
いまに「マスクをしてください」と注意されるような気がする。
VAoAlj68thjFjdyUYzmlt89KTNEsDduavyXLVt00Kn6JpHHqBOADtFUyzemkvVCsxxQQOOl_KOLNbzZLKEgTpzRAs0KrcHfwYaHqfbXCvnavio9YluYQZUE1PjEFTWyRSXee7Mpgnt6fjE1MmSk66QHKPdT29uXcu_8KRtSOADGLLq2cMPMbLEwdvYJROtR3ahbegJpsCYVmzkBiorCI3WXl.jpg
たくさんやすめたか、については いまひとつの連休だった。
きょうねんは緊急事態宣言の影響で、
連休ちゅうはカレンダーどおりにやすめたけど、
ことしは利用者へのサービスとして、2日ほど事業所をあけ、
職員はそのうちの1日に出勤することになった。
日曜日には、とまりの仕事もはいり、リズムがくずれる。
2年まえは、年号がかわる関係で10連休となり、
嘱託職員という肩がきのわたしは、
カレンダーどおり10日つづけてやすんだことがなつかしい。

Web本の雑誌に連載されている杉江さんのブログには、
ゴールデンウィーク前に目黒さんと連絡をとっていたときに「本の雑誌社はいつまで休みなの?」と聞かれ、「暦通りですよ」と答えたら、「ええええ! 11連休じゃないの?!」とたいそう驚かれたのだった。
 その時はなんでそんなに驚くんだろうとこちらが驚き返したほどだったのだが、そういえば本の雑誌社は年末年始とゴールデンウィークは9連休とか10連休とかしっかり取るのが伝統というか決まりだったのではなかったか。

http://www.webdoku.jp/column/sugie/2021/05/06/054057.html
とある。
ことしのゴールデンウィークを11連休にするには、
4月30日(金)や、5月5日(木)と6日(金)を
「ついでに」やすむという、積極的な姿勢が必要となる。
本の雑誌は、「伝統というか決まり」として、
しっかりやすむ方針だというから すてきな職場だ。
「ええええ!」とひとがおどろくくらい、
わたしもつづけてやすみたかった。

posted by カルピス at 21:49 | Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年05月05日

『遠い山なみの光』(カズオ=イシグロ)なんだか小津安二郎の映画みたい

『遠い山なみの光』
(カズオ=イシグロ・小野寺健:訳・ハヤカワ epi 文庫)

いまではイギリスでくらす悦子が、
ふと長崎にいたころをおもいだしている。
現在のイギリスと、敗戦後しばらくたった長崎の、
ふたつのはなしが平行してすすんでいく。
この、長崎の部分が、妙にかったるくて、はじめはとまどった。
会話がつうじているようで、なにか かみあっていない。
よんでいるうちに、小津安二郎の映画みたいだと気づいた。
「あなたが(アメリカへ)生きたいんなら、ほんとによかったと思うわ。でも、まずお嬢さんを探すことじゃない?」
「悦子さん、わたし、ほんとうに何もはずかしいとは思っていないのよ。何も隠し立てしたいとはおもわないの。恥ずかしいとはおもってないんだから」
「まずお嬢さんをさがしてからと思ったのよ。話はそのあとでいいじゃない」
「いいわ」佐知子は笑った。「先に万里子をさがしましょう」

「訳者あとがき」によると、
カズオ・イシグロは5歳のときにイギリスへわたったそうで、
それくらいの年齢なら、断片的な記憶か、
全体をとりまくぼんやりしたイメージで、
かすかに長崎をおぼえている程度だろう。
それなのに、なぜカズオ・イシグロが、はじめての作品として、
うろおぼえの日本を舞台に、なにがおきるわけでもない
この地味な小説をかかなければならなかったのか。

長崎時代のおもいでとして登場する佐知子は、
自分をアメリカへつれていくという、
ほとんどあてにならないアメリカ人男性をまちつづけている。
これまでになんどか約束をやぶられながらも、
その男性とアメリカへいくことが、むすめの将来にもふさわしいと、
自分にいいきかすよう、くりかえし悦子にはなす。
じっさいに外国へでかけたのは悦子のほうで、
佐知子がどうなったかはあかされていない。
イギリスで、長崎時代をふりかえっている悦子は、
当時はサラリーマンの妻として、ごく平凡にくらしていた。
のちの自分がイギリスへわたるとは、
とてもおもってないような女性としてえがかれている。

長崎時代は、ようやく敗戦のいたでがうすれたころで、
ちからづよく社会が復興し、くらしはおちつきをとりもどしている。
でてくるひとたちは、みんな小津映画の登場人物のようで、
なかなかさきへすすまない会話をよんでいると、
いかにも日本的で、当時の日本人の風俗がよくあらわれている。
日本での記憶はほとんどないはずのカズオ・イシグロが、
日本人のくらしぶりを これだけよくリアルにかけたものだ。
たとえば、選挙で夫とはちがう政党に妻が票をいれたと、
ふんがえす人物(悦子の義父)がでてきて、
そのかんがえ方をまわりのひとも肯定している。
戦争でまけたからと、いまの日本人は なにもかも
アメリカのまねをすると、なんどもなげいている。
日本社会がおおきくかわろうとして、
それにのみこまれ、混乱している日本人もおおかった。

カズオ・イシグロは、ふたりの女性、佐知子と悦子、
そしてそのむすめたちを登場させ、
母とむすめというふたつのペアを、
まるで鏡のような存在としてえがいている。
たんたんと、しずかにかたられながら、
小津作品のような、不思議な余韻をのこす小説だ。

posted by カルピス at 21:50 | Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年05月04日

朝日新聞土曜日版beの連載「猫を飼う」に期待する

今週の朝日新聞土曜日版beに、
「猫を飼う」という企画がのった。
「1」とあるので、何回か連載されるのだろう。
1回目は、「道で子猫をみつけたら」というもの。
Beがすすめているのは、
拾う前に、母親がいるかどうか確認して。(中略)しばらく様子を見て、もし母親がいるようなら、子育てを見守って、離乳が始まったころに、母子一緒に保護してあげるのがいい。

というやり方だ。
もし母猫がいなければ、まず動物病院へ。
そして、地域猫活動をしているひとや、
動物保護団体に相談することもすすめている。
すでに何匹かネコをかっていて、これ以上ふやせないひとは、
そうした団体にしらせたら、どうしたらいいかおしえてくれる。
子ネコをみつけたからといって、
ぜんぶ自分が責任をおわなければならないのではなく、
適切に対応してくれる団体につなげば
子ネコをしあわせにできるかもしれない。

わたしの経験では、子ネコが母ネコといっしょにいたことはない。
どの子ネコも、ひとりきりで、おなかをすかせ、
なにかをうったえるように、ピーピーないている。
なくけれど、姿をみせない子ネコもいる。
ごはんをあげてみて、たべるようなネコなら
つかまえて家につれてかえればいいけど、
ひとを警戒してちかづかないのなら、
動物保護団体に相談したほうがいいかもしれない。

ネコをかいたいけど、どうしたらいいのかわからないひとが、
こういう記事に背中をおされるとうれしい。
子ネコはたしかにかわいくて、すてきな家族だけど、
はでにあばれまわり、家具をキズつけたりもする。
時期がくれば、去勢や避妊手術を必要になる。
あたらしい家族として、子ネコをどうむかえたらいいのか、
これからの連載に期待したい。

posted by カルピス at 21:32 | Comment(0) | ネコ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年05月03日

とまりあけのリセットには、散歩とひるね

とまりあけの月曜日。
定期的にではなく、ほんのときたま職場でとまりをたのまれる。
ゆうべがひさしぶりのとまり(ショートステイ)だった。
利用者に、1対1で対応すればよく、いそがしくはないのだけど、
かといって、ゆっくりねむれるわけでもない。
とまりになれていないせいか、翌日のつかれは独特だ。
わかいころは、とまりあけでもつづけて仕事をしていたけど、
いまそんなことをやると、なんにちもつかいものにならなくなる。
夜のつきそいのあと、朝の食事をサポートし、
それがおわると8時半には職場をあとにした。

サッカーの元日本代表監督のオシムさんは、
遠征でとおくの国へでかけたとき、時差に適応するために、
空港につくと、ホテルへむかわず、まず練習にとりくんだ。
からだをうごかすことで、時差ボケをリセットできるという。
それにならって、わたしもジョギングしようとしたけど、
いうはやすく、おこなうのはたいへんだ。
とてもジョギングにでる余裕はなく
たおれるようにベッドにもぐりこんだ。
そのまま90分からだをやすめる。

目がさめても、ぼーっとしたままだ。
ジョギングではなく、あるいてかいものにでることにした。
いつもなら自転車でいくコースを、ききのがし配信の
「ジャズ・トゥナイト」(NHK-FM)をききながら
ゆっくりあるいてスーパーへむかう。
曲よりも、大友さんのあついかたりがここちよい。
とまりあけのリセットには、散歩、そして、
それにつづくひるねがわたしには有効だ。

道をあるくひとのほとんどがマスクをつけている。
自動車にひとりでのっていても、
マスクをつけているひとがおおい。
まえは、人ごみのなかにでるときはマスク、
郊外を散歩するときはマスクなしでも可、
という雰囲気だったのに、このごろはもっとシビアだ。
朝日新聞の川柳に、
人前で外すは脱ぐに近くなり

という作品がよせられていた。
マスクは「はずす」、というよりも、
下着をぬぐ感覚にちかくなっている。
口もとをひとまえにさらすのは、
パンツをぬぐにひとしいはずかしさを
おぼえるようになりつつある。
島根県でさえ下着感覚になっているのだから、
都会は さらにきついプレッシャーにさらされているのだろう。

スーパーにはいるときは、もちろんマスクをもとめられる。
わたしのはなんちゃってマスクなので、
ズボンのポケットからしわくちゃになったマスクをとりだす。
アルコールでの消毒は、手があれてきたので失礼する。
ほんとうに新型コロナウイルスの感染をふせぐには、
わたしのマスクや手の消毒は ザルみたいなものだ。
都会のように感染者がふえれば、
わたしなんかはすぐに発病しそうだ。
島根に生きるしあわせをかみしめる。

昼ごはんのあとに90分のひるね。
これでとまりあけのリセットは完成で、
夕方には予定どおり9キロのジョギングにでる。
いちどとまりをたのまれると、
からだをもとにもどすのがあんがいたいへんだけど、
それだけに、とまりをおえたあとは 開放感がすごい。
まさに、生きてるだけでまるもうけだ。
平凡な日常生活が、いかにしあわせかをおもいしる。

posted by カルピス at 21:13 | Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年05月02日

J1リーグ第12節 アビスパ福岡のサッカーにわくわくする

J1リーグ第12節、アビスパ福岡対浦和レッズをみる。
福岡というと、J1リーグに昇格しても、
なかなか定着できない いまひとつなチーム、
という印象をもっていたけど、この試合はおもしろかった。
カウンターサッカーといっても、
福岡はガチガチにひいてまもるのではなく、
たかい位置での連動したプレスをかける。
なんといっても攻撃にきりかえたときの迫力がすごかった。
ゴツゴツとからだをあててボールをうばい、
味方へのパスのスピードもはやい。
全力ではしりつづけるサッカーは みていてわくわくしてくる。
どのプレーも、自分たちのサッカーへの自信にあふれている。
全員によるサッカーを、たかい質をたもったまま90分つづけられる。

前半のはじめころは、浦和が圧倒的にボールを支配していたのに、
福岡がはじめてせめあがりクロスをあげると、
いったんはボールをおさめたキーパーの西川がハンブルし、
こぼれたボールをブルーノ=メンデスがおしこむ。
浦和からすると、攻撃しつづけていたのは自分たちなのに、
アッというまに先制点をうばわれてしまい とまどっている。
浦和はゴールちかくまでせめこむものの、
なかなかシュートまでいけないし、
なんどかおとずれた決定的なチャンスを、
福岡のゴールキーパー、村上がスーパーセイブする。
浦和がとくにわるいのではなく、福岡がよくまもった試合だ。
両チームとも特徴をだしあい、よくはしり、
みごたえのあるゲームとなった。

後半終了間際、交代ではいったジョン=マリが、
強烈なボレーシュートをきめる。
西川はとめたものの、ボールのいきおいがまさり、
ゴールへとこぼれていく。ズドンとおもいシュートだった。
これで試合がきまり、福岡が2000年以来という3連勝をかざった。

今シーズンのJ1リーグは、調子のいいチームと、
なかなか波にのれないチームとに、はっきりわかれている。
上位にいる川崎と名古屋だけでなく、
横浜F・マリノスと鳥栖がチームの特徴をだし
つよさを印象づける試合をつづけている。
福岡も、浦和との試合だけでなく、
広島・FC東京と、強豪チームをくだし、
長谷部監督のサッカーがJ1リーグでも通用するところをみせた。
上位にいるチームの破壊力はどこもすさまじく、
これからのリーグ戦がたのしみとなる。

posted by カルピス at 10:49 | Comment(0) | サッカー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年05月01日

『本の雑誌 5月号』のおすすめは「三角窓口」(投稿欄)

きのうにつづき『本の雑誌 5月号』について。
特集は「本屋がどんどん増えている!」で、
これもまた魅力的なタイトルではあるものの、
わたしがいちばんひかれたのは、
読者からの投稿欄である「三角窓口」だった。

・夢のなかで病院へいくと、「この本をよむように」と
 先生がタブレットをつかい、その場で発注してくれ、
 待合室でまっていると、本がとどく、というはなし、というか夢。
 そんな病院があって、じっさいに病気がなおればいいなー。

・夫は国語、妻は理科の教師、という夫婦で、
 夫は古典が専門のせいか、現代文学はまったくよまない。
 私(妻のほう)は理系だけど、趣味は読書。
 娘ふたりとも本はよまないけど、下の娘は文系で、
 言葉にかんするゆたかなセンスがある。
 家で一番本を読んでいるのは私なのに、
 国語のセンスのなさをかんじる、というもの。
 「本を読む楽しさを家族の誰よりも知っているから、
  いいけどね。」という達観がいいかんじだ。

・図書館にくる男の子で、いつも機嫌のいい子がいる、という報告。
 気もちのいいくらい、本当にいつもご機嫌な子なので、
 その子がくると まわりまで おだやかな気もちになるそうだ。
 そういう子って、たしかにいるなー。
 どんなおとなにそだつのだろう。

・漫才師の和牛がすきなひとからの投稿で、
 「生活の全てを賭けて和牛を応援している」そうだ。
 ボケの水田さんが、いままで一冊も本をよんだことがない、
 というのをしっておどろいたという。
 「あの緻密な伏線回収の漫才を書いている人が
  本をよんでいないとはマジか?」
 水田さんは、60歳になったら本をよもうかと おもっているらしい。

・アダム=サヴィジというひと(アメリカのユーチューバー)が
 えらんだSF本のトップ5という企画で、
 4作目が村上春樹さんの『1Q84』だった、という投稿。

「三角窓口」って、いつもこんなにもりだくさんだったっけ?
とまえの号をひっぱりだすけど、あまりおもしろくない。
5月号だけが突出してじゅうじつしているみたいだ。
その月の特集や、新刊本を紹介するページよりも、
『本の雑誌 5月号』は なぜか投稿欄へ意識がむかった。

posted by カルピス at 17:03 | Comment(0) | 本の雑誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする