9作の児童文学を、「挑発する少女小説」という視点から
文芸評論家の斎藤美奈子さんがよみといていく。
9作は以下のとおり。
・『小公女』(バーネット)
・『若草物語』(オルコット)
・『ハイジ』(シュピーリ)
・『赤毛のアン』(モンゴメリ)
・『あしながおじさん』(ウェブスター)
・『秘密の花園』(バーネット)
・『大草原の小さな家』シリーズ(ワイルダー)
・『ふたりのロッテ』(ケストナー)
・『長くつ下のピッピ』(リンドグレーン)
どれも名前はしってるとはいえ、ダイジェスト版を
よんだだけのものがおおい。
『ハイジ』と『赤毛のアン』は、
アニメをみて「よんだ」ことにしている。
ほんとうに「よんだ」のは、
『大草原の小さな家』シリーズと『長くつ下のピッピ』だけだ。
さすがは斎藤さんの本で、ストーリーにこめられた「挑発」を、
きれいにときあかしてくれており、
原作をよんでいなくても興味ぶかい読書となった。
たとえば、『秘密の花園』では、
主人公の少女メリーが、お屋敷にすむ
病弱な男の子 コリンをあるけるようにする場面がある。
部屋にこもってばかりいたコリンを、秘密の庭につれだし、
庭をつくりなおす仕事をすることで、
健康をとりもどしていくのだけど、
「歩けることは正しいことか」という視点を
斉藤さんは紹介している。
しかし、じゃあ一生歩けない子はどうなのか。(中略)『ハイジ』や『秘密の花園』の根底にあるのは「健全な精神は健全な肉体に宿る」という障害者差別を正当化しかねない思想でしょう。自然の力で子どもは健康を取り戻すという、一見正しいように思える思想とも、それは地続きです。
そして斉藤さんは、荒唐無稽なピッピの言動に、彼女の孤独をみる。
夜になれば父や母のいる家に帰るトミーとアンニカ。しかし、ピッピはいつもひとり。完全な自由と独立を手にした少女の孤独はそのぶん深い。存在をアピールしたくて突飛な行動に出てしまうのだともいえます。
どの論考も、斉藤さんがこれらの小説をどうよんだかであり、
けして正解とはかぎらない。わたしはべつのよみ方をしてもいい。
それでもこれだけトリックやポイントが整理されると
わかったつもりになる。ここちよい、おすすめの一冊だ。