配偶者をさそい、1週間ほどタイへでかけた。
彼女はタイがはじめてなので、メコン川をみてもらおうと、
ノンカイゆきを日程にいれる。
メコン川のむこうはべつの国のラオス、というのが
日本人の胸にささりやすいのではないか。
じっさい、メコン川の景色は配偶者をよろこばし、
お接待の役目をはたせたわたしも安心した。
ノンカイで朝ごはんをたべに3回たずねた食堂がある。
翻訳アプリによると「麺おばさん食堂」というらしい。
クティヤオ(タイのうどん)を注文すると、
具がたっぷりのどんぶりと、毒けしの野菜、
それにデザートのスイートまでつけてくれる。
3日目には、あげパンまでついてきた。
日本からきたというと、お店のBGMに日本の曲をかけてくれた。
さいごの日、今夜の列車でバンコクへもどります、
おいしいうどんをありがとう、とスマホでつたえると、
お店の主人がぜひいってもらいたい場所がある、といいだした。
1時間100バーツ(400円)で自分が案内する、という。
親切にしてくれたひとが、きゅうにガイドをかってでて、
ビジネスをしようとするのはよくあるはなしだ。
ほんとに100バーツのツアーなのか、と確認すると、
「ツアーでもビジネスでもない」と
もうけばなしでないことを強調する。
その日の午前はとくに用がなかったので、
1時間100バーツなら、だまされてもいいや、と
おじさんについていくことにする。
いったいどんな結末をむかえるのだろうか。
おじさんは自分のトゥクトゥクでわたしたちを
メコン川ぞいの遊歩道につれていく。
そこから階段で船つき場までおりると、
ほかの観光客も10名ほどあつまっていた。
このひとたちといっしょにいくのか、とおもっていると、
おじさんは、わたしたち2人だけを船にのせた。
どうやらこの船はおじさん個人のものらしい。
メコン川のなかにパゴダがあり、そこにおそなえをするのが
宗教的な意味があるようで、
おじさんは自分がお金をだして、おそなえ用の花をかっている。
船がパゴダにちかづくと、その花をわたしにもたせ、
メコン川にうかべるようにいう。
その儀式のあとは、しばらくメコン川を遊覧し、
川からの景色をわたしたちにあじわせてくれた。
トゥクトゥクでもとのお店にもどり、2人分の200バーツをしはらう。
とても200バーツでおさまるおでかけではなく、
貴重な体験ができたことをよろこぶ。
おじさんの親切が、どこからくるのかわたしにはわからない。
旅行者に、ただよろこんでもらいたくて、という
純粋な行為だったのではないか。
こんかいのタイ旅行で、いちばんのおもいでになったのが、
「麺おばさん食堂」とのであいであり、船によるメコン川遊覧だった。