2011年10月23日

『本へのとびら』(宮崎 駿・岩波新書)

2部構成になっていて、
167ページのうちの146ページまでが
宮崎さんがえらんだ50冊を中心とした児童文学のはなし。
それ以降の20ページほどが
第2部の「3月11日のあとに」となっている。
分量はこのようにわずかでも、
第2部の内容はとてもおもい。

1冊ずつに宮崎さんの紹介文がついていて、
そのどれもがたのしい。
まだよんでない本もいっぱいあるので、
何冊かをチェックした。
宮崎さんは挿絵や表紙についてのおもいいれがふかく、
本だけでなく絵についての魅力もおしえてくれる。

「借りぐらしのアリエッティ」の原作
『床下の小人たち』もでてくる。
宮崎さんがはじめてこの本をよんだのは
22,3歳ごろのことで、

「いい本だなあと思うけど、
今これをつくってはいけない」

という時代についての判断があった。

なぜいまごろこの本を映画化する気になったかについて、

「『床下の小人たち』を取り上げたのは、
今や大人たち、いや人間たちが、
まるで世界に対して無力な、
小人のような気分になっていると
思ったからです」

時代についての宮崎さん(それに高畑さんと鈴木さんも)の
感覚がするどくていつも感心している。
ジブリの作品はどれも、
それぞれが時代にたいして
どういう意味をもっているかの
判断のもとつくられている。

「みんなが小人になっちゃったんですよ。
世界にたいして無力になって、
1円でも安いほうがいい、
なんてつまんないことのために
右往左往している。
見ている範囲もほんとうに狭くなってきた。
歴史的視野とか人間のあるべき姿とかの大きな主題が、
健康とか年金の話にするかえられてしまいました。
煙草をやめるとか、メタボをどうとか、
どうでもいいことばかりです」

という発言が宮崎さんらしい。
宮崎さんのかかれたものにふれると、
ピュアな感覚をとりもどせそうで気もちいい。

第2部はものすごく悲惨な予言の書だ。
3月11日以降を
「風が吹き始めた時代」という世界観でとらえた、
すごくきびしい「これから」についてかかれている。

「生きていくのに困難な時代の幕が上がりました。
この国だけではありません。
破局は世界規模になっています。
おそらく大量消費文明のはっきりした終わりの
第一段階に入ったのだと思います。
そのなかで、自分たちは正気を失わずに
生活をしていかなければなりません」

以前から、宮崎さんはおなじようなことをかたっている。
こんな消費文明がいつまでもつづくわけがない、
いまの日本の繁栄も「たまたま」手にしただけにすぎず、
それにうかれておごるものたちを
にがにがしくおもっておられた。
その没落のときが、とうとうすぐそこまできてしまったのだ。
この時代にどう生きるか。
いろんな情報にながされおどらされ、
ぶざまな姿をさらしたくはない。
『ゲド戦記』みたいなしっかりした世界観の作品が
よみたくなってきた。

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posted by カルピス at 22:21 | Comment(0) | TrackBack(0) | 宮ア駿 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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