これはさすがに「困る」だろうなとおもう。
「困る」どころではなく、
ほんとによく生きていられるものだとおもう。
それほど大野さんにふりかかり、
いまも進行形である難病はけたはずれだ。
ビルマ難民を支援したいという使命感にかられ、
大学院にはいって調査と勉強をつづけようとした2008年に、
大野さんは「筋膜炎脂肪織炎症候群」と
「皮膚筋炎」という2つ難病を発症した。
からだじゅうがあかくはれ、いたみ、
関節がだんだんうごかなくなる。
高熱がでて、口のなかや指は潰瘍だらけ。
しかし発症してもすぐには病名がわからず、
この病名がきまるまでに1年かかっている。
そのあいだ医療難民としていくつもの病院をまわる(まわらされる)。
大野さんの病気は「免疫のシステムが勝手に暴走し、
全身に炎症を起こす」タイプの難病で、
それはどういうことかというと、
「何十種類もの薬によって、
室内での安静状態で、
なんとか最低限の行動を維持している。
それでも症状は抑えきれず、
二十四時間途切れることなく、
熱、倦怠感、痛み、挙げればきりがのない
さまざまな全身の症状、苦痛が続く」
これまでふつうにできたことができなくなり、
生きるだけでもたいへんだけど、
この本はよんでいてくらくならない。
もちろん大野さんの「困りかた」は尋常ではないが、
自分にあまえることがなく、
自分のことをかきながら、
どこか第3者的な視点をかんじるからだろうか。
大野さんが客観的に自分のことを表現すると、
「困ってるひと」というしかないのだろう。
たいへんな状況なのに、
大野さんは病院をでてひとりぐらしをはじめる。
だんだん病気がよくなったからではない。
最期の糸がきれてしまうほどの最悪のできごとがおこり、
そこからたちあがるために「退院」をきめたのだ。
この本の魅力は、
こうやって自分でまえにすすめていこうとする
大野さんの気もちのよさにある。
つよいだけではなく、くじけそうなときもあるけど、
それでも「人生は、アメイジング」と大野さんはいう。
すむ家をさがし、行政に膨大な量の書類をだし、
ひっこしの準備をすすめる。
ひとりでできることはひとりで。
できないことはいろんなひとに協力をあおいで。
だれにとっても生きていくのはたいへんだけど、
とびきり大野さんはたいへんだ。
それでも病院をでて、ひとりでの生活をはじめた大野さんを
すばらしいとおもう。
わたしにできることはなにもないが、
こうした生きかたを支援する人間でありたい。
この本をプロデュースしたのは高野秀行さんだ。
あらゆるジャンルの「辺境」に目くばりをきかせる
高野さんならではのいい仕事をされたとおもう。
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