『おすすめ文庫王国』のベスト6にえらばれている。
又吉直樹という芸人のことも、
「ピース」というおわらいコンビのこともわたしはしらなかった。
しらなくてもこの本はたのしめるし、
とりあげられている本のことをしらなくてもおもしろい。
「ピース」のことも、本のことも、
なにもしらなくてもたのしめるというのは
ものすごいほめことばではないだろうか。
「いきものがかり」にもなれずに、
図書係の、そのまた第2で、しかも補佐、というところから、
著者のもうしわけなさがにじんでいる。
又吉さんがすきな本を紹介したエッセイであるとはいえ、
ほんとうは、「すきな本について」かいてあるといいきれない
微妙な内容だ。
ぜんぜん関係のないはなしだったり、
その本をめぐるおもいでだったりして、
めったに本の内容にはふれてない。
本文のあとに【あらすじ】として、
とりあげた本のあらすじがあらためて要約してあり、
本文がいかに紹介としては役だってないかがわかる。
わたしがすきなのは
『サッカーという名の神様』と『異邦人』についてかかれたものだ。
『サッカーという名の神様』は、
又吉さんが子どものころから
サッカーとどうかかわってきたかにふれてある。
又吉さんは西ドイツのマチウスという選手のプレーにあこがれ、
左足だけでボールをけりつづける。
チームメイトに非難されても、
自分にとってのかっこいいプレーをやめない。
コーチのいうことを素直にきいたほかの友だちより、
自分のやりたいプレーをやりつづけた又吉さんのほうが
結局はサッカーをたのしんでいる。
技術的なうまさよりも、自分の欲望に貪欲なほうが
(なんていうと村上龍的だけど)重要なのだ。
「『サッカーという名の神様』は
サッカーに纏わる写真とエッセイで綴られた本だ。
ページをめくる度に球が蹴りたくなる。
ドリブルで駆け上がりたくなる。
ゴールネットを揺らしたくなる。
減免でシュートを止めるとこ見せたくなる。
鼻血たらたら垂らしながら、
根性なしの僕にそうさせるのは
サッカーという名の神様だ」
こんなことをかかれると、『サッカーという名の神様』にあうために、
この本をめくりたくなる。
『異邦人』といえば「不条理」にふれないわけにいかず、
この本ではどう料理するのかたのしみにしていたら、
「なんで俺の金でパン買ってくるんだよ〜」
という現代日本の吉本的な不条理だった。
そうやってわらわせながら、
「僕は予定調和なことよりも
不条理なことにリアリティと人間味を感じてしまうことが
往々にしてある」
と、異邦人的な不条理の本質を
ちゃんとおさえているところがさすがにするどい。
もうひとつ、『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』もよかった。
「奴の財産の半分、二千円を奪いバイクに乗ってビリヤード場に戻った。
店員は読みかけの本を置き笑顔で迎えてくれた。
何を読んでいるのか尋ねると、
店員はうれしそうに本の表紙を僕に向けた。
そこには『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』とあった」
『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』について
ぜんぜんふれてないのに、
なんとなく村上春樹の小説っぽい雰囲気がただよっている。
「はじめに」にあるとおり、
解説や批評ではないけれど、
どのはなしもなんとなく紹介してある本をよみたくなってくる。
あたらしいタイプのエッセイといっていいのではないか。
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