わたしが声優としての納谷氏しかしらなかっただけで
氏は劇団テアトル・エコーに所属されており、
演劇のほうが本職だったのだろう。
とはいえ、わたしにとっての納谷悟朗氏は
どうしても銭形警部の声とかさなってしまう。
映画『カリオストロの城』では、
結婚式の混乱にまぎれて
地下の造幣所までかけおりる。
偶然にニセ札づくりの現場を発見したようによそおって、
「ルパンをおってて
とんでもないものをみつけてしまった。
どーしよー」
というわざとらしいベタな演技がわすれられない。
うまさだけではなく、
たどたどしい棒よみが、この場面ではもっとも効果的だった。
また、銭形警部がわたしたちに「昭和ひとけた」世代という
共通のイメージをうえつけたといってよい。
あそぶことをしらず、公私ともにいつも仕事のことしか頭にない。
時間をおしんで仕事中は仕出し弁当かカップヌードルだし、
あやしいものをみつけると、
そのカップヌードルをほうりだして捜査をはじめる。
世代でいえば、ちょうどわたしの親たちの世代であり、
親戚のおじさんはまさに銭形警部的な滅私奉公の人生を
うたがうことなくあゆんでいた(ようにみえる)。
ルパンのいう「さーすが昭和ひとけた。仕事熱心だこと」は、
そんな世代を代表する銭形警部にこそふさわしいセリフだ。
あまりにもまじめなので、
すべての言動がルパンにはおみとおしだ。
銭形警部くらいその言動を予想しやすいひとはいなかっただろう。
ルパンの軽妙さは、銭形警部がいたからこそよりきわだってみえた。
昭和ひとけたを代表するこうした銭形警部らしさは、
納谷悟朗氏の声なしではかんがえられない。
ルパン三世の人気は、銭形警部だけにおうものではもちろんないが、
銭形警部ぬきではその魅力がずいぶんちがったものになっていただろう。
わたしにとっての『ルパン三世』は、
銭形警部が一生懸命にルパンをおっかけ、
ルパンは余裕しゃくしゃくでにげまわるという、
いつもかわらぬドタバタのストーリーだ。
銭形警部がいてこそのルパンだった、と
納谷悟朗がなくなったいま、はじめて気づいた。
銭形ががんばっておいかけるから、
ルパンは安心してその世界にひたり、
にげまわることができた。
納谷悟朗氏のご冥福をおいのりしたい。
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