寅さんがおばちゃんの老眼鏡をかりて
新聞をよむ場面があった。
この作品は1973年につくられているので、
渥美清イコール寅さんとすれば、
このとき寅さんは45歳だったことになる。
わかいあんちゃんとしての寅さんをイメージしていたけれど、
おおくの作品は中高年の年代にとられていることに気づく。
すいた・ほれたも、なかなかおもうようにはいかなかったのではないか。
まあ、寅さんみたいにプラトニックな恋愛だったら
50だろうが60になろうが、関係なかったともいえる。
中高年の寅さんは、マドンナたちのどこにひかれたのだろう。
『寅次郎忘れな草』はシリーズ第11作、
はじめてリリーが登場した作品だ。
おなじような生き方をしてきたふたりはひかれあい、
リリーみたいな女にこそしあわせになってもらいたいと
寅さんは本気ですきになっていく。
老眼鏡が必要になったとはいえ、45歳の寅さんは男ざかりで、
カタギではないものどうし、どうころんでもおかしくない作品だった。
40年まえの45歳というと、
いまよりももっと大人として位置づけられる年齢だったろう。
「いい歳して」とまわりがもとめ、
そして自分でもなんとかしたかった寅さん。
北海道の開拓農家にすみこみではたらこうとしたのも、
45歳という年齢がもつプレッシャーだったのではないか。
そのすこしまえにリリーとであい、自分たちの根なし草のような生活が
けしてまともではないことを寅さんはつよく意識する。
子ども時代や青年期が大変だというけれど、
中年だって生きのびるのはかんたんではない。
自分がほんとうにやりたいことはなにか、
自問自答するやっかいな歳ごろだ。
旅をしながら、女性にほれながら、
寅さんはなんども自分をかえようとする。
でも、けっきょくもどっていくところは
いつもの自分でしかない。
寅さんシリーズは、ときどきの「本気」をまじえながら、
だんだんと若者たちへの応援だったり、
もしかしたら、とおもいつつも、
じつはどうにもならないことを達観した
「きよい交際」へとうつっていく。
それぞれにおいて、寅さんはいろんな魅力をみせてくれるけれど、
わたしは寅さんが主人公としてうごきまわる作品がすきだ。
リリーが登場するこの『寅次郎忘れな草』は、
初期の寅さんとして、ヒリヒリする本気の恋愛と、
これからどうしていこうかという中年期のあせりがいりまじった
印象的な作品となっている。
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