2013年08月14日

『文藝別冊いしいひさいち 仁義なきお笑い』わたしがだいすきな いしいひさいちの世界

『文藝別冊いしいひさいち 仁義なきお笑い』(河出書房新社)

いきつけの本屋さんに、文藝別冊のコーナーがつくられていた。
超有名人にまじっていしいひさいち氏の別冊がおいてある。
きょねんの6月に出版されていたのに、かいそびれていたものだ。

わたしの家は以前から朝日新聞を購読しており、
『ののちゃん』と『地球防衛家のヒトビト』(しりあがり寿)を
毎朝たのしんでいる。
この2作の連載は、新聞の歴史において
どう客観的にみても最強であり、
いかにも朝日新聞らしい説教くささにあふれた
フジ三太郎の時代にくらべ、
どれだけ新聞をひらくたのしみがましたことか。
いちど、3ヶ月のあいだ、
いしい氏が病気療養のため休載した時期があり、
いしい氏のまんがのない朝が、どれだけ味けないものか身にしみた。

「でっちあげインタビュー」にあるとおり、
いしひひさいち氏は

「まんが家としてよりも取材に応じないことの方で有名」
なのだそうで、
そのいしい氏を対象によくこんな別冊がつくられたものだ。

記者 「アイデアにこまったということはありましたか?」
いしい「ほかにすることもないので常にストックしていて
    こまるということはありませんでした」
記者 「もう辞めたいと思ったことは?」
いしい「そのストックで描くとたいてい駄作で
    辞めたいと思いました」

「でっちあげ」と称しながら、
ほんとうにおこなわれたインタビューっぽいし、
ほかにも「仕事場&アイデアノート大公開」の企画など
資料的な価値もたかい。
わたしが大学生のころ、「タブチくん」や「バイトくん」に
どれだけわらったかをおもいだした。

特別寄稿マンガとして、とり・みき氏が
「ロカちゃん」をよせている。
ロカちゃんとは、ファド歌手をめざす高3の女の子で
ののちゃんにときどきでてくる。
とり・みき氏は「なんと彼女には首や関節がある!!サ骨もある」
と重大な指摘をしており、わたしはいしい氏のかくキャラクターに
首や関節がないことにはじめて気づいた。
とり・みき氏は、ほかにも藤原先生を例にあげ、
ふつう男性マンガ家がみのがしてしまう
リアル(すぎる)な髪の処理や線のつかい方にふれ、
アイデアだけでなく絵のたくみさにおいても
いしい氏の実力についておしえてくれる。
そういえば、いしい氏のかく似顔絵、たとえば「シノヅカ」などは、
失敗したふくわらいみたいに
目と鼻がテキトーに配置されている。
それがどうみても「シノヅカ」なのは
よほどたくみに線をとらえているのだろう。

ロカちゃんは、残念ながら

「朝日新聞のコアな読者には
たいへん評判がわるかった連載内連載、
いわゆる吉川ロカシリーズは
3月24日付朝刊の漫画をもって終了しました」

ということだ。
朝日新聞の、いかにもあたまのかたそうな読者を相手に
どの線がギリギリの許容範囲かを
さぐりながらの連載になるのだろう。
もっとも、わたしもひとのことをいえず、
「ののちゃん」をみても
そのおもしろさが理解できないことがまれにある。
むすこにきいてもだめなことがおおいので、
年代というよりはほかのなにかが
わたしの家族にはかけているみたいだ。

別の特別寄稿では西原理恵子氏が、

「はるか昔、30年も40年も前のころ
日本中の漫画家になりたい女の子が
みんなベルバラを描いていたころーーー。
私は地底人を写し描きしていた」

と告白している。
「ホッペと口のとこのバカ線が
とってもむつかしくて」ということだ。
西原氏はかねてよりいしい氏のタッチをパクっていたそうで
「四コマの起承転結のハズし方やら
キャラの憎らしかわいいのとか
ねっもうマネしまくりのそっくりさんでしょ ホラホラ」

「私もパクってんだよ。
誰か気づけよ」

気づかなかった。

いしい氏が、どれだけおおくの漫画家に
4コママンガの真髄をつたえたか、はかりしれない。
そして「ののちゃん」世界のひとびとによるトホホな思想は、
大上段にかまえた社説や特集よりも
はるかにつよい影響を読者にあたえてきた。
そうでなければ地球はもっとはやく地底人に征服され、
防衛家のヒトビトのたすけが必要だったはずだ。

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posted by カルピス at 09:30 | Comment(0) | TrackBack(0) | いしいひさいち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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