2013年09月14日

『醤油と薔薇の日々』(小倉千加子)夫に媚びる妻のさきがけ

『醤油と薔薇の日々』(小倉千加子・いそっぷ社)

若妻の安田成美が、帰宅した夫に
「薔薇っていう字、書ける?」とたずねる
キッコウーマンのCMがあったそうだ。
おおくの女性がこのCMに嫌悪感をもった、
というところから本書ははじまっている。

なかでも姫野カオルコさんがこのCMについて
『ダ・カーポ』271号によせた文がすごい。

「『なんか(顔に)ついてる?』と無垢な(無垢を装った)表情で尋ね、
『へんなの・・・』とクスッとはにかむCMを見たとき、
私は全身に鳥肌がたち胃液が逆流してくるのを感じた」

というからかなりの拒否反応だ。
小倉さんは女性たちの嫌悪感について、その理由をこう分析している。
「妻の夫に対する媚を描いた」から。

未婚の女が未婚の男に媚をうるCMに、
テレビをみている女性は反応しない。
「媚でも何でも使える武器は全部使って
経済的安定を手に入れるしかない」
とわかっているからだ。
しかし安田成美のCMは、
「結婚してもまだ媚びようとしている妻」をみせるものだった。
「結婚してもなお、夫への媚というサービスが控えているなんてうんざり」
というのがこの嫌悪感というから
女性たちが結婚と男にむける絶望はふかい。
「夫と対等っぽいポーズをとりながら
全面的に夫に依存し、甘え、ゲーム性を演出する」
というめんどくさいサービスなんてまっぴらなのだ。

小倉さんはここでもういちどCMをおさらいする。

「亭主が帰宅すると、女房は料理をしている。
振り向きざま、『ねえ、薔薇っていう字、書ける?
私、書けるんだよ』と指で宙に漢字を書く。
続けて曰く
「醤油っていう字、書ける?」
と口をとがらせて自慢する女房」

わたしはこのCMをみていないが、
わたしにとってこの演技(むかしなら「ぶりっ子」といった)は
ストレスであり、イライラさせられる。
こんな「ゴッコ」をみせられたら、にげだしたくなるだろう。
男は、こういう妻をかわいいとおもうのか。
そうおもえないからわたしはどういう男なのか。

もっとも、もともと安田成美にたいして
いいイメージをもっていないのも原因かもしれない。
そのむかし、安田成美は「風の谷のナウシカ」のイメージガールとして、
作品とはなんの関係もないのに映画公開のときにしゃしゃりでてきた。
そのちゃっかりしたところがハナにつき、
(安田成美がわるいのではなく、起用したほうがわるいのだけど)
生理的にうけつけなくなった。

このキッコーマンのCMをはじまりとして
おなじようなメッセージをのせたCMが
いくつもつくられたという。
理想とされる妻が、結婚してまで
夫に媚びなければならないのであれば、
女性にとって家でも仕事がつづくことを意味する。

「良識はあっても常識のない人には住む場所がない」(小倉)

このようなCMが支持される価値観は
非婚・晩婚化のながれを加速させた要因ともいえる。
結婚をえらばない生き方の芽が
こんなところにもかくされていたことにおどろかされた。

「夫が会社から帰ると、そこには一個の花園がある。
結婚生活の薔薇化が進行している」

と小倉さんはむすんでいる。
良識のある女性には、たまらない花園だろう。

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posted by カルピス at 09:02 | Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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