2013年09月21日

『モバイルハウス 三万円で家をつくる』(坂口恭平)生きるために必要なものはあんがいすくない

『モバイルハウス 三万円で家をつくる』(坂口恭平・集英社新書)

坂口さんの主張は、生活にかかせない家なのに、
その家を手にいれるのがものすごく困難なのはおかしくないか、
ということだ。
家をたてるために何千万円が必要なのは、
憲法第二十五条
「すべての国民は、健康で文化的な
最低限度の生活を営む権利を有する」
からみても憲法違反ではないか、という根源的な疑問だ。

路上生活者の家をみて、それこそが
自分がであいたいとおもっていた家であると坂口さんは直感する。
「それは、強く、居心地がよく、住む人にフィットした、
根源的な意味での『巣』だ」

おどろいたことに、その家のもちぬしの鈴木さんは、
まったくお金をかけずにその家をつくっている。
材料はゴミ置き場や工事現場からもらってくる。
クギはすべてひろったものだという。

しかし問題は、その家がたっているのが隅田川沿岸で、
東京都の所有地であり、不法占拠にあたることだ。
法的には河川法に違反していることになる。
鈴木さんは「追い出されたら、今度は
リアカーの上に家をつくろうと思っているよ」
という案をもっていた。
家と土地がくっついているから
土地の所有という問題がでてくるのであり、
移動できる家であれば不動産にならない。

坂口さんは『独立国家のつくりかた』(講談社現代新書)でも
・なぜ家はこんなに値段がたかいのか
・土地は所有できるものなのか
・そもそもお金がないと人間は生きていけないのか

という疑問から
「1人で、〇円で国をつく」ろうとこころみている。
モバイルハウスは、そのひとつの実践ともいえる。

坂口さんは、多摩川にすむべつの路上生活者の男性に
家のつくり方をならう。
すべてひろった材料でつくろうとすると、
寸法のちがう廃材ということになり
たくさん無駄がでる、というその師匠のアドバイスにしたがい、
材料はホームセンターでかうことにする。
2万6千円という材料代で3帖の家ができあがる。

電気はソーラーパネル、水道は公園の水、
ガスはカセットコンロ、トイレは公園と、
この家にすむかぎり、インフラにはほとんどお金がかからない。
坂口さんはこの家を吉祥寺の駐車場におき、
自分でもくらしてみるし、友だちにもつかってもらう。
大震災がおこったあとは、「モバイルハウス」のつよみをいかして
避難先の熊本に家をうつす。

モバイルハウスにくらす目的は、
これまで一般的にかんがえられてきた
「家」のかわりにつかうためではない。
「家の在り方をみつけること」
と坂口さんはとらえている。
モバイルハウスには3帖の空間に
ベッドと机があるだけだ。
これ以外になにが必要だろうか。
「実は何も(必要では)ないことに気付く」

「もちろん、ちょっと不便なことはたくさんある。
しかし、それは本当に不便なことなのか、
と考え直してみると、どれもそこまで
必要だというわけではないことばかりだった。
なぜなら、そのほとんどが都市にはすでに備わっているのだから」

公衆トイレ・公衆水場・図書館・コインランドリー
コンビニ・公園・ホテルのラウンジ・ファーストフード店、
これらとモバイルハウスをむすびつけた生活を坂口さんは
「一つ屋根の下の都市生活」ととらえている。
これまでそれぞれの家がはたしてきた機能を、
もっとひろく都市全体にひろげてかんがえている。

夏はあつく(エアコンも冷蔵庫もない)冬もさむいような家で、
いくらお金をかけずいにくらせるといっても、
たのしくつづける自信は、わたしにはない。
しかし、野宿にも通底する、
あるものですませようという精神が、
さまざまなしがらみからの自由を生みだすことを
すばらしいとおもう。
家や土地を所有するにはたくさんのお金が必要という、
これまでのおもいこみをとりはらい、
とにかくやってみようと行動にうつすことで
坂口さんは「生きる」ためには最低限なにが必要かをつかんでいく。
おおくのひとは、それがわからないから
いろんなことにまどわされるのだろう。

わたしが居心地よくくらすためにはなにが必要か。
数百冊の本とパソコンさえあれば、
あんがい機嫌よくくらせるような気がしてきた。

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posted by カルピス at 16:59 | Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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