きのうのカリオストロもそうだったけど、
村上春樹さんのエッセイも
いちどよみだすとそのままいってしまう。
「はじめに」にあたる「十年ぶりに戻ってきて」
(このエッセイは、「アンアン」での連載を10年ぶりに再会したもの)
というあいさつで、
「肩の力を抜いて、わりに気楽に読んでいただければなによりです」と
こころがまえについてふれてある。
わざわざそんなことがかいてあるのは、
「村上春樹」がなにものかについて
あまりよくしらない読者を安心させるためなのだろう。
音楽・料理・ネコなどのおなじみの話題や、
80年代にすごしたギリシャとイタリアについて、
それらをとりあげる背景(というとおおげさだけど)の説明もあり、
「初心者」もすんなりはいれそうだ。
こりゃ、ますます愛読者がふえるだろうなー、と
読者の対象に目をくばった、やわらかな路線に感心しながらよんだ。
村上春樹ファンとしては、この本をきっかけに
どの道をたどってハルキの森をさまよってほしいかというと、
わたしはいつも『羊をめぐる冒険』、そのあとに
『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』をすすめている。
しかし、どちらも1980年代にかかれた本であり、
ふるすぎるわけではないが、すこし変化をつけたくなってきた。
あたらしいはいり方として、『海辺のカフカ』、
そのあと『1Q84』へ、というながれを提案したいとおもう。
これらの本で、村上作品の魅力にはまりこんでしまえば、
なにをよんでも吸収できる体力がやしなわれている。
小説をぞんぶんにたのしんだあとは、
問題作『うさぎおいしーフランス人』で脱力してもらえれば、
あなたはもう、りっぱなハルキファンだ。
『村上ラヂオ2』では、いちばんはじめの
「野菜の気持ち」というはなしがよかった。
映画『世界最速のインディアン』にでてきた
「夢を追わない人生なんて野菜と同じだ」
というセリフが紹介されている。
「なるほど」と納得すればそれでおわりだけど
(わたしは「なるほど」と感心した)、
それをきいた男の子は「でも野菜って、どんな野菜だよ?」
とききかえしたのだそうだ。
いわれた男性はこまってしまい
「まあキャベツみたいなもんかなあ」
とはなしが「ゆるい方向」にながれていく。
たしかにセリフとしてはかっこいいけど、
そんなことをいわれたら野菜の立場がない。
村上さんがこのはなしの教訓としてあげているのは、
「何かをひとからげにして馬鹿にするのはよくないですね」だ。
われわれは、とかく「日本人は」とか、「巨人ファンは」とかいって、
おおきなかたまりをひとつにまとめてとりあつかってしまう。
そうした乱暴な意見のやりとりは、
へんな方向にはなしがいってしまったり、
どこにもたどりつけなかったりする。
というふうな、もっともらしいことをいうよりも、
「夢を追わない人生なんて野菜と同じだ」ときめてみたり、
それに反論したりのほうがずっとたのしそうだ。
わたしはどちらかというと、夢をおわない野菜みたいな人間なので、
「どんな野菜だよ?」といった男の子に一票いれたいとおもう。
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