2013年12月13日

『好きなのにはワケがある 宮アアニメと思春期のこころ』(岩宮恵子)

『好きなのにはワケがある』(岩宮恵子・ちくまプリマー新書)

岩宮さんが序章でとりあげているのは『海のトリトン』だ。
『トリトン』の最終回をみおわったあとで、
岩宮さんは強烈な喪失感をあじわう。
もっとも、「喪失感」と気づいたのは高校生になってからで、
まだ12歳だった当時の岩宮さんは

「理屈はまったくわからないけれど、
その最終回を見てから、寝ても覚めても
トリトンのことしか考えられない日々を送るようになった」

という。
このときに自分の身におこった「喪失感」について、
宮ア駿監督作品をテキストに、
思春期という特別な時期から説明したのがこの本だ。

岩宮さんのもとにやってくる子どもたちのおおくが
宮ア駿監督のアニメのはなしをするという。
作品への感想だけでなく、ハクやヤックルへのおもいもつよく、
あんなふうにいってほしい、とか、
あんな存在が身のまわりにいたら、とか
子どもたちはねがっているそうだ。
いったい宮アアニメの、なにが彼らをひきつけるのだろう。

『魔女の宅急便』と思春期はいかにも関係ありそうだけど、
『ハウル』は岩宮さんの手をかりなければ、
表現されている意味をわたしはまったく理解できなかっただろう。
『千と千尋』についての説明も素直に納得できるもので、
こんなみかたもできるのかと、臨床心理士ならではの分析がとてもおもしろかった。
岩宮さんにいわれてみると、『千と千尋』にでてくる人物のおおくが、
思春期をくぐりぬけるのにたいへんなおもいをしていることがわかる。
そして、わたしたちの身のまわりにいる子どもたちも、
おなじように思春期にとまどっているという視点をもちこむと
その行動に合点がいくことがおおい。

「カオナシはなんとなく人がたくさんいる場所には
ふらふらと近づいていくのですが、
自分から一歩踏み出すようなことはまったくできません」

「誰からも嫌われているオクサレサマを見ていると、
学校でときどき見かける、
とてつもなく破壊的な行動をいつもとってしまう
子どものイメージと重なってきます。
学校のルールをいっさい守らず、ありとあらゆる秩序を乱し、
周囲の生徒たちを巻き込んで、投げやりですさんだ雰囲気を作る。(中略)
学校の先生たちも、オクサレサマとどう関わったらいいのか、
どうしたら鎮まってくれるのか、ものすごく考えています」

『好きなのにはワケがある』という本書のタイトルは、
「すきなものはしょうがないだろう」という
一種のひらきなおりかとおもっていたけど、そうではなかった。
そのアニメがすきでたまらないということは、
それなりのワケがあるのだ。

岩宮さんの『トリトン』にあたるのが、
わたしにとっては『未来少年コナン』だった。
もうすぐ大学がはじまるという18歳の春、
再放送で毎日放映されたコナンにわたしはうちのめされた。
最終回がおわったときに呆然となったのは
岩宮さんの『トリトン』とおなじで、
はげしくこころをゆさぶられながらも、
なにが自分の身におこったのかまったくわからなかった。
毎日放送されていたからよかったものの、
これがもし週に1どの放送だったら
わたしはまちきれずになにか問題をおこしたのではないか。
それほど『コナン』をわたしはつよくもとめていた。
『コナン』は、コナンがラナをおもうものがたりだ。
あとで宮崎さんへのインタビューをよみ、
わたしはコナンのように、あいてをつよくおもえるひとになりたい、
というねがいをもっていることがわかった。
なりたいけどなれない。
そのギャップがわたしをいらだたせたのだとおもう。

「『なぜ、あの作品があんなにすきだったのか』を
改めて考えることは、
大人になった自分の原点を見つめ直すことにもなるのです。
そして思春期に、わけもわからず異界をさまよった経験は、
社会のなかでどうやって生きていくのかという
世間知とはまったく違うレベルで、
自分の存在を支えてくれるエネルギーとなります。(中略)
そう。なにかがすごく好きになったとき、
そこには生きていくために必要な、
とっても深いワケが隠されているのです」(岩宮)

『コナン』よりずっとさかのぼる10歳のころ、
わたしは『ルパン三世』の世界にしびれてしまった。
すきだ、というだけでは説明のつかないこころのたかまりを、
わたしははじめて体験した。
このときすでに、わたしのなかになにかのタネがまかれており、
数年後、おなじ宮崎駿作品である『コナン』と『トトロ』に
つよく反応したのは当然のことだったのだろう。
10歳のころにうえつけられた『ルパン』へのあこがれが、
どれだけ決定的なものだったかを、いまさらながらにおもう。

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posted by カルピス at 22:05 | Comment(0) | TrackBack(0) | 宮ア駿 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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