旅行作家の宮田さんが、日本のいろいろな場所をたずねる。
宮田さんといえば、外国旅行にいきたくてたまらず、
会社をやめてライターになったひとで、
日本を対象にした本もいくつかでている。
この本は、「廣済堂よみものweb」で一年間連載された原稿を
加筆訂正してまとめたものだという。
名古屋・日光と、ふつうの町にまじって
「大陸(と言っても過言ではないうちの庭)」と、
宮田なんとわが家の庭をとりあげてしまった。
宮田家の庭は、家のまわりを一周できるようになっていて、
この「一周できる」というのが宮田さんにとってはきわめて重大なことだった。
その理由は
「任意の点Aにいるとして、反対側の点Bへ行くのに
二通りの道が選択できるから」であり
「そうすれば、途中C地点に1000ポインとのダメージを与える敵キャラがいる場合でも、
それに出会うことなく反対側へぬけられる」という、
鬼ごっこの鉄則である「二方向避難ルートの確保」がまもられているからだ。
というわけで、宮田さんは、任意の玄関Aから時計まわりで一周の旅にでる。
「さて、われわれは、
いよいよわが家の庭の最西端に到達しつつある。
ユーラシア大陸でいうところのロカ岬だ」
がおかしい。この本をよむまでわたしはロカ岬のことをしらなかった。
地図をみると、ほんとうに、ポルトガルの西の端に、この岬があるのだ。
「ロカ岬を過ぎて、北西の端に到達すると、
一周まではあと少しだ。
家の北側はこれまでとは一転、暗くて狭くて寒い。
西のロカ岬から東のガレージまで
一直線に通じているこの通路を、北東航路と呼びたい」
がこの章の白眉だ。
大航海時代の冒険がはじまるようなものものしさで
しずしずと、いさましくわが家を一周する宮田さんの「旅」は、
文字どおり新世界を発見したとたたえることができる。
これまでに、いくつもの旅行記や、
おとずれた町を紹介する本をよんできたけど、
自分の庭を一周するという別次元の発想は、宮田さんにしかないものだろう。
もうひとつ、おとこのおろかさを極限までみつめた
「千里」もなかせるはなしだ。
宮田さんは、中高生のころすんでいた千里ニュータウンをたずね、
あちこちにちらばるおもいでの場所を紹介している。
「ついに世界の真実を知ったのは、中2のときだった。
クラスの男子の間で、ある写真が回ってきて、
えらい驚いたのである」
という、事件をきっかけに、
宮田少年の頭のなかは「真実の探求」でいっぱいになる。
そのあと高校の美術教師に「クラス女子30%の真実」をうちあけられ、
宮田さんはさらにはげしくモンモンとした日々をすごすわけで、
わかき日の宮田少年は、まさにわたしだと、ふかく共感するのだった。
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