朝日新聞の土曜日版「be」に「悩みのるつぼ」という
相談コーナーがあって、
岡田さんをふくめ4人の方が読者からの相談にこたえている。
この本は、ただ質問と回答をならべただけでなく、
どういうかんがえ方からそのこたえをみちびきだしたかという、
思考回路をあきらかにしたものだ。
回答者の4人というのは、岡田さんのほかに
上野千鶴子さん・車谷長吉さん(いまは美輪明宏さん)
・金子勝さんというメンバーで、
岡田さんとしては当然だれよりもおもしろい回答をかくことをめざしている。
わたしもこのコーナーをよくよんでいて、
岡田さんの回答はたしかに意外性があり、おもしろく、役にもたちそうだ。
岡田さんは、どんな方法で質問にとりくんだのだろう。
まず、相談者は何をもとめているかを分析する。
質問には「どうしたら◯◯になるでしょうか?」など、
自分がなにをしりたいかがたいていかかれているけれど、
それがほんとうに相談者のいちばんしりたいことかというと、
どうもそうではない。
いろいろうったえてきているなかで、このひとはどんな回答をもとめ、
どんな表現ならこころにとどくのかを岡田さんは慎重にかんがえる。
また、相談者のうしろには、おなじ問題になやむ
10万のひとがいる、と岡田さんはとらえている。
うえから目線で説教しても相手にはつたわらない。
そのひとの立場で、そのひとの味方になることで、
その10万人にもことばをとどけるつもりで回答をかく。
「分析」「仕分け」など、11個の思考ツールをつかっておられ、
ひとつひとつについてこまかな説明がされている。
わたしがひかれたのは、「仕分け」についての
・解決可能な問題を仕分ける
だ。
ある女性からの相談をまとめてみると、
・27歳で、7歳の子がいるシングルマザー
・中絶する予定の前日に実家から逃げ、一人で子供を育ててきた
・自分が3歳のころに両親が離婚。3歳のときにきた母親に虐待されつづけた
:虐待された子は虐待する可能性があるときき、子どもとすごすのがこわい
・昼夜はたらいており、息子の勉強を見てあげられず、勉強嫌いになった
・高卒後に派遣の会社にはいり、上司にキスされたショックで退職
・夜の仕事が本業になり、じきにお客さんの子どもができた
・自分が入院しているあいだに彼は浮気して、
自分の貯金を全部もっていってしまう。縁がきれてよかったとおもっている
・いまは愛人のような形で生活をたすけてくれる相手がいる
・しかし、マンションのローンをはらっておらず、
あと3ヶ月ででていかなければならない
・ずっと連絡してなかった両親にたすけをもとめたが、
「自分の責任」とつきはなされ、どうすればいいかわからない
これだけよむと、もう問題が山づみで、
どこから手をつけたらいいのかわからなくなってくる。
朝日新聞の担当者も「岡田さん、大変な質問が来ました」と深刻にとらえ、
つけられた仮題が「壮絶、シングルマザー」だったという。
でも、これらの「問題」をよくかんがえてみると
・27歳で、7歳の子がいるシングルマザー
→ いまは関係ない
・中絶する予定の前日に実家から逃げ、一人で子供を育ててきた
→ たいへんでしたね。でも、いまは関係ない
・自分が3歳のころに両親が離婚。3歳のときにきた母親に虐待されつづけた
:虐待された子は虐待する可能性があるときき、子どもとすごすのがこわい
→ トラウマでたいへんかもしれないけど、
「いまこのひとがなやむべき問題ではない」
・昼夜はたらいており、息子の勉強を見てあげられず、勉強嫌いになった
→ いまは関係ない
・高卒後に派遣の会社にはいり、上司にキスされたショックで退職
→ いまは関係ない
・夜の仕事が本業になり、じきにお客さんの子どもができた
→ いまは関係ない
・自分が入院しているあいだに彼は浮気して、
自分の貯金を全部もっていってしまう。縁がきれてよかったとおもっている
→ 縁がきれてよかったとおもっているのだから、いまは関係ない
・いまは愛人のような形で生活をたすけてくれる相手がいる
→ 「問題」かもしれないけど、とりあえずいまはよし
・ずっと連絡してなかった両親にたすけをもとめたが、
「自分の責任」とつきはなされ、どうすればいいかわからない
→ だめといわれたのだから、しょうがない
けっきょく、このひとがかんがえなければならないのは、
・しかし、マンションのローンをはらっておらず、
あと3ヶ月ででていかなければならない
というこの部分だけに整理できる。
ひとは、おもすぎる荷物をまえにするとうごけなくなる。
「解決可能な悩みだけにフォーカスを合わせる」ことで、
身がるになり、解決にむけてうごきだせるようになる。
岡田さんは回答の最期に、
「今、あなたが考えるべきは『自分の稼ぎで住める場所を探す』だけのはず。
前だけをしっかり向いて、がんばってください」
とかかれたそうだ。
わたしの仕事でも、支援計画といって、
利用者のニーズをききだして、ひつような支援を整理することがある。
研修会などでよくあるのは、いろいろなケースについて、
グループで検討するというもので、このときに問題が山づみで、
どこから手をつけていいのかわからないことがおおい。
また、ききだしたとおもっているニーズが、
ほんとうはべつのことがいいたかった、ということもあり、
岡田さんのこの本は、課題の分析について、
じっさいに役だつかんがえ方をおしえてくれた。
朝日新聞の「悩み相談」というと、
中島らもさんの「明るい悩み相談室」をについて
どうしてもふれておきたい。
「じゃがいもを焼いてミソをつけてたべると死ぬ、といわれたが本当か?」
という相談にたいして、らもさんは
「本当です、僕の友人の医者のはなしでも・・・」とやったのだ。
じゃがいもにミソをつけてたべようがどうしようが、
いつかは人間は死ぬ、という趣旨だったのに、
その回答がものすごい波紋をよび、おおさわぎになった、という
有名な「焼きじゃがいも事件」だ。
岡田さんのするごいこたえに感心しつつ、
らもさんのサービス精神がわすれられない。
「だれよりもおもしろいこたえを」と
ほかの回答者を意識する岡田氏は、
もしらもさんがメンバーにまじっていたら、
どう返答をいじってくるだろうか。
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