わたしにとって、『母親ウエスタン』につづく原田ひ香の2冊目だ。
うんざりするような女性が2人と、まともそうにおもえる女性が2人。
うんざりするほうは、まともそうなほうから
相応とおもえるつれないあつかいをうけ、
よんでいるわたしは溜飲をさげる。
でも、だんだんと、まともそうなほうも、
そんなにまともな面ばかりでないことがわかってくる。
佐智子は他人の家にはいり、なかのようすをみるのが趣味で、
鍵をあけるのには、自分でつくった道具をつかう。
ピッキングだ。
でも、なにもとらない。
ただ部屋のようすをこまかく観察すれば気がすむので、
これまでにつかまったことはない。
このピッキングのわざをいかして
佐智子は、わかれた夫とそのあたらしい妻がくらすマンションに
しのびこむことになる。
親戚すじのおばさんに、ピッキングの現場をみつかってしまい、
なんとなくそんなながれになってしまったのだ。
佐智子は、そのおばさんといっしょにマンションをおとずれる。
ピッキングのたのしさを佐智子がおばさんに説明するのがおかしい。
「家の中を見るのもいいですけど・・・
この、開ける瞬間も実は結構楽しいんです」
そうだろうとおもう。カチッとうまく鍵があいたときの手ごたえは、
そうとうな快感をもたらしてくれるだろう。
おっさんの解錠師はたまらないけど、
いかにも素人っぽい35歳の女性がやるとかっこよさそうだ。
玄関にある靴を佐智子がこまかく観察していると、
おばさんにいそぐよううながされる。
「さあ、入りましょう。
こんなところで止まっていたら、いつまでたっても終わらない。
あの人が帰ってきちゃう」
「はい・・・でも、
こういう細かいところを見るのも楽しいんですよ」
そのたのしみのために佐智子はピッキングをしてきたのだけど、
それをことばにだして自然に説明されると
なんとなく納得してしまう。
ひとの家にかってにはいっておきながら、
ぬすっとたけだけしい、というよりも、
「仕事に熱中しているご婦人はうつくしい」という
『カリオストロの城』でルパンが不二子にいったセリフがぴったりくる。
まともそうなひとが、まともでないことをしながら、
まともなことをいうと説得力がある。
あれこれしてるうちに、予定していなかった「ティータイム」がはじまりそうになってしまう。
本書は、原田ひ香のデビュー作で、すばる文学賞を受賞、とある。
147ページほどの中編小説で、『母親ウエスタン』にくらべると
よみごたえはすくない。
でも、いやなやつはいなくて、みんなすこしずつへん、
というのがいかにも原田ひ香の作品らしく、
とくにラストのドタバタは、なんだかニール=サイモンのシナリオみたいに
きれいにはまっている。
よんだあと、おもいがけずいい気分にさせてもらった。
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