ながくきつい坂を、自転車がのぼっていくのがみえた。
スタンドもついているので、
本格的な自転車のりではないようだ。
そもそもそもながぐつをはいている。
でも、回転をおとさずに、いいリズムで一直線にすすんでいるようすから、
すばらしい体力のもちぬしにおもえる。
すれちがうとき横をみると、笑顔をうかべて自転車をこいでいた。
おじさん、というほど歳はとってないみたいだ。30歳ぐらいか。
自転車はクロスバイクだった。
すごくたのしそうだ。
ひとりの子をおくり、県道にぬける山道をとおると
またその自転車といっしょになった。
そんなにとばしてはいないけど、
一定のスピードをたもっている。
県道にでると、自転車はさらにきつい坂のまつ 峠にむけてすすんでいった。
坂なんて、なんともおもっていないのがよくわかった。
これがロードレーサーで、
ヘルメットとはでなウェアできめた自転車のりだったら
なんともおもわない。
かるい自転車でいいですね、くらいか。
とくにスピードがでるわけでもないクロスバイクにのって、
普段着にながぐつという格好で
軽々と坂道をのぼっていくから 自由さがきわだった。
自転車が自由なのりものとよくいうけれど、
坂をなんともおもわない精神と筋肉があれば、
という条件がつく。
どんな坂でもそれなりにきついし、
電動アシストではサイクリングらしくない。
自転車とつきあうには、坂とどうむきあうかを はっきりさせないといけない。
わたしだったら おりてしまわないまでも、
極端にギアをさげてヘロヘロの蛇行走行になったり、
そもそもそんな坂をとおろうともおもわないような道を
体力にすぐれた自転車のりは、なんのためらいもなくのぼっていく。
自転車って、どこまでもいけるな、といまさらながらおもった。
こんなに自由なのりものだったことを、
そのひとのはしりをみるまで わたしはわすれていた。
とびきりの自転車でなくても、ウェアをきめなくても、
あるていどの筋肉と、坂なんてなんともおもわない
自由な気もちがあればあんなふうにはしれるのだ。
まえにみたテレビ番組で、ひとりの旅行者が
自転車でモスクワをめざしていた。
最終日、きょうでやっとモスクワにはいれる、という日は
雪まじりのつめたい雨がふっている。
自転車の横を 大型トラックがどんどんすぎていき、
さぞかしいやな心境だろうとおもってみていたら、
そのひとは「わくわくしてきました」とはなしていた。
おいこすトラックから風圧をうけ、騒音もひどいのに、
その音が自分をもりあげているように かんじられたという。
別の番組では、自転車で旅行中、
パンクの修理をするのがたのしい、というひとがでてきた。
やればどんどんうまくなるので「パンクはだいすき」という。
「いやだなー」とおもえばなんでもたのしくなくなる。
たのしいとおもえば雨でも騒音でも、パンクでもたのしい。
かんがえ方ひとつ、というのはおもしろくないけど、
どうせやることはおなじなのだから、
たのしくなるかんがえ方のほうがいい。
筋肉はきゅうにはつかないけど、
かんがえ方はどうにでもかえらえる。
坂なんてなんでもない、というふうに、
らくらくと自転車をこぐ ながぐつお兄さんの自由さがすてきだった。
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