『デフレの正体』の藻谷さんが、
商店街・過疎集落・観光・農業・医療・鉄道・不動産開発という
7つの分野について、それぞれの現場で活躍するひとにはなしをきく。
7つの「対話」とも、これまできいたことのなかったかんがえ方がしめされており、
非常に刺激的だ。
「観光」については、スイスのツェルマットで観光事業にとりくむ山田桂一郎さんが
いまの日本にもとめらえる方向性をしめしている。
「ツェルマットのように住民が幸せそうに生活している場所は、
訪れた人が『自分も住んでみたい』と感じ、何度も足を運びたくなる。(中略)
地域に根付いたライフスタイルの『異日常』性が、最大の売りポイントです」(山田)
島根県でもそういう場所がでてきている。
石見銀山の群言堂や、隠岐諸島では、
地理的な不便さを逆手にとって観光にいかしている。
道路や新幹線を整備しないとお客がふえない、は
根拠のないおもいこみのようだ。
「観光バスでどっと乗り付けてすぐ立ち去る団体客が
いくら増えたところで、本当の意味で地域は潤いません」(山田)
「日本の観光地がダメになった原因の一つは、
まさにこのような『一見さん』を効率よく回すことだけを考え、
リピーターを増やす努力を長く怠ってきたことにあると思います」(山田)
山田さんは
「まず地域全体が本当に豊かになるためにはどうしたらいいか、
という議論から始めます」
といい、
「観光業の方よりも、むしろ農林漁業従事者や、
その地域で個人偉業をやっているような方が参加してくださるほうがありがたいし、
それ以上に、実は専業主婦の方や子どもたちに入ってもらうことの方が大事です」
藻谷「今、日本ではチープな地域振興が持て囃されています。
B級グルメ、単発イベント、そしてゆるキャラ」
山田「ダメな地域って、その三つを必ずやってますよね」
「とにかく安い値段で提供するのが商売だと思い込んでいる。
人口が増えた時代に量で稼いだ記憶が、
客が減る時代にもどうしてもぬけない」(藻谷)
やすくてひとがあつまるイベントを消費者はよろこぶけれど、
それがおわってしまえばお客はすぐにへってしまう。
地元にとって単発イベントは、その後への持続的な効果がほとんど期待できない。
そうではなくて、地元でとれた食材の価値を正統な評価し、
それをお客さんに提供してよろこんでもらう。
いいものをやすくうっていては 生産者がしあわせになれない。
「都会の百貨店に置いてもらうんじゃなくて、
地元にわざわざ来て、食べてもらう、買ってもらう。
地域にきて消費するだけの価値があるものをちゃんと産み育てましょう」(山田)
出雲大社はきょねん「遷宮」が話題となり、
たくさんの観光客がおとずれた。
駐車場をもとめて車の列がつづき、
参道はひとでごったがえしている。
お店にも列ができ、ずいぶんまたされている様子だ。
わたしだったら、こんなところにもうにどといくものか、
とおもうだろう。
とおくからわざわざ出雲大社にきてくれたお客さんが、
どんな印象をうけたのか気になるところだ。
たくさんのひとにきてもらうだけで
その地域がゆたかになるわけではない。
値段をさげて量をうるのはながくつづかない。
適切な数のお客に上質なサービスを提供し、よろこんでもらい、
またこの町にこようとおもってもらうことが、
いまの観光にもとめられている。
地域のひとたちが、しあわせに生きるすがたこそ
もっとも商品価値のある資源なのだ。
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