新元良一氏による記事で、新元氏は
NHKラジオの『英語で読む村上春樹』に出演されているという。
すごくたのしみにして本を家にもってかえり、えらばれた10冊をみてみると、
微妙にわたしのこのみとずれている。
ひとそれぞれの10冊があって当然なわけだから、
わたしも自分なりの10冊をえらんでみることにした。
こういう企画では、だれを対象にした10冊なのかを
はじめにはっきりさせておいたほうがいいだろう。
初心者なのか、高校生なのか、すべての年代なのか。
新元氏の記事ではとくに対象を限定していない。
『本の雑誌』にのっているのだから、
対象は『本の雑誌』のおもな読者層である中高年者なのだろうか。
わたしのえらぶ10冊は、まだ村上春樹をよんだことがなくて、
これからその世界にはいっていくときの道しるべとして想定した。
また、新元氏もそうされているように、対象とする村上作品は、
翻訳本をのぞくすべての作品、つまり小説・エッセイ・旅行記・その他とする。
まだ村上春樹の本をよんだことのないひととはなしをしたときに、
「なにからよんだらいいですか?」と
なんどかたずねられたことがある。
わたしはたいていの場合、『羊をめぐる冒険』をすすめている。
初心者にいきなり『ねじまき鳥クロニクル』では
村上さんの世界にはいりにくいような気がして、
まだそれほどはなしがいりくんでいない『羊』をあげるのだ。
もうひとつの理由は、わたしがはじめてよんだ長編が『羊』なので、
ついこの作品をあげてしまうのかもしれない。
とはいえ、はじめてのドストエフスキー作品が『カラマーゾフの兄弟』でも、
ぜんぜん問題はないわけで、『羊』を導入作品にするのは
あくまでもわたしのこのみであり、ひとつの案だ。
デビュー作の『風の歌を聴け』は、きっと村上さん本人は
10冊にえらばないだろう。
作品の完成度からみたときに、村上さんにはいろいろおもうところがあるだろうし、
外国語版としての出版はみとめてないと なにかでよんだことがある。
しかし、ここから村上春樹がはじまったという意味で、
今回の「10冊」には、はずさないでおく。
わたしがいちばんすきな作品は
『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』なので、
これもとうぜんのこす。なんどよんでもすばらしい本だ。
長編として、あとは『ノルウェイの森』と『ねじまき鳥クロニクル』にした。
『1Q84』や『海辺のカフカ』がよくないというわけではない。
しかし、村上春樹をかたるうえで『ノルウェイの森』ははずせないし、
『ねじまき鳥』の世界は、わたしにとっていかにも村上春樹なのだ。
ほんとうはどれでもいいわけで、あえて理由をあげれば、
今回は長編から4冊というわりあてにしたからにすぎない。
旅行記としては『遠い太鼓』。
新元氏は旅行記としてもう1冊『やがて哀しき外国語』をあげていた。
この本はめずらしくわたしのこのみにあわず、
よんでいるときからイライラしたことをおぼえている。
わたしとしてはまよわず『遠い太鼓』をえらんだ。
エッセイはなにがいいだろうか。ここでは『村上朝日堂』をすすめることにした。
この本は1984年に出版されており、まだわかい村上さんが
けっこうすきかってなことをかいている。
はなしをまとめるうまさは、最近のエッセイ集のほうがうえだろうけど、
ノーベル賞の候補に名前があがるようになったいまでは、
ここまで自由にかけない。
ある意味で貴重な村上春樹のなまの声だ。
短篇集は『短編選集 象の消滅』にした。
この本は、アメリカで出版された短篇集を
あとから日本に逆輸入したもので、本のつくりがおしゃれだし、
『ねじまき鳥と火曜日の女たち』・『ファミリー・アフェア』・『納屋を焼く』
・『パン屋再襲撃』・『午後の最後の芝生』と、
おさめられている作品が充実している。
『パン屋再襲撃』は、なんというか有名なはなしだし、
『ファミリー・アフェア』にでてくるいいかげんなお兄さんが
わたしはすごくすきなのだ。
『ねじまき鳥と火曜日の女たち』は
のちにこの作品が『ねじまき鳥クロニクル』へとふくらんでいくわけで、
ゆでられるスパゲッティの量や、路地でであう女の子がきている服など、
両作品の微妙なちがいをたのしめる。
ここまでで8冊。あと2冊だ。
ランナーとしては『走ることについて語るときに僕の語ること』をあげたい。
翻訳についてはなすときの村上さんが すごく率直なように、
はしることについてかかれた文章は まっすぐよむ側につたわってくる。
わたしは、本にでてくる「少なくとも最後まで歩かなかった」をあたまにおいて、
ヘロヘロになっても、レースではとにかくあるかないことにしている。
「その他」のジャンルとして『うさぎおいしーフランス人』をおすすめする。
奇書といっていいかもしれない。
どんな本かというと、「村上かるた」なのだそうで、
それがまたじつにくだらない、というか、
徹底的に意味をはなれたおもしろさがすごい。
(たとえば「いくら否認しても、妊娠八ヶ月なの」など)。
村上さんにはこういう面がある、という好例であり、
ほかのどの作家にもこの本はつくれないだろう。
あの村上さん、と、「あの」がつくようになった村上さんが、
こんなことにまで頭をつかってくれるなんて、
読者としては、ありがたというよりない。
安西水丸さんの絵がまたすばらしいので、
小説をよむことに抵抗のある方は、この本から村上春樹をはじめたらいいかもしれない。
というわけで、わたしのおすすめは、以下の10冊になった。
・『羊をめぐる冒険』
・『風の歌を聴け』
・『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』
・『ノルウェイの森』
・『ねじまき鳥クロニクル』
・『村上朝日堂』
・『遠い太鼓』
・『短編選集 象の消滅』
・『走ることについて語るときに僕の語ること』
・『うさぎおいしーフランス人』
どちらかというと、ふるい作品がおおいかもしれない。
でも、この10冊からはいれば、村上春樹の森でまよう心配はない。
この10冊を体験することで 適切な基礎体力がやしなわれ、
あとはどの村上作品も あたまからしっぽまで すべてをあじわいつくせるはずだ。
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