とちゅう2ヶ所ほかの島へよるので、3時間ちょっとの船旅だ。
隠岐諸島には、おおきな島が4つと、
たくさんのちいさな島からなっており、
わたしはこれまでに ほかの3つの島をたずねたことがある。
今回は、さいごにのこった4つめの島として 海士町(中ノ島)をえらんだ。
この町は「ないものはない」のスローガンで有名になっている。
文字どおり、すべてがあるのだ、という意味と、
「ないものはない」からそれでやっていくんだ、
というひらきなおりと。
海士町の観光協会が管理しているレンタサイクルは、
24時間で1500円とたかすぎるから、
島へは自転車をもっていくことにした。
ふつう輪行というと、ハンドルやペダルをはずして
かなりコンパクトにするけど、
めんどーなので、まえとうしろのタイヤをはずすだけで、
ハンドルの部分はむきだしの「なんちゃって輪行」ですます。
フェリーにはつりを目的に、おおきな荷物をもちこむひとがいるので、
わたしの自転車もそう違和感がない。
フェリーは予定どおり3時間ほどで、海士町にある菱浦港につく。
片道3240円。
港には「キンニャモニャセンター」があり、
フェリーの発着場だけでなく、観光協会やお店が一体となって
いい雰囲気をだしている。
観光協会で島の地図をもらい、自転車でキャンプ場をめざす。
とちゅうに町の図書館があったのでよってみると、
ちいさいけれど、いごこちがよさそうにととのえられていた。
ちいさな町の図書館というと、倉庫みたいなところに
本がならべられているだけ、というのがよくあるパターンだけど、
ここの図書館はちゃんと生きているのがすぐにわかる。
じっさい、ちいさな子や、わかい女性がしずかに本とむきあっていた。
本屋さんもあった。文庫本を中心に、あたらしい本もおさえてある。
ねむっていない図書館と本屋さんがあるのは、
町のおおきな財産だろう。
IターンやUターンでしられる海士町の活気は
(人口2300人のうち330人がIターン)、
キンニャモニャセンターと図書館のようすからもうかがえる。
隠岐諸島は、きょねんジオパークに指定されたことから
地形や植生をいかしたとりくみにちからをいれている。
とはいえ、知識がなければ「きれいな海岸だなー」
くらいでおわってしまうだろう。
キャンプ場のある明屋海岸は、港から8キロのところにある。
とちゅう、道の両側に田んぼがひろがる、日本的な風景があらわれる。
でも、町のサイトをみると、これらの水田は
「隠岐ではめずらしい風景」なのだそうだ。
田んぼをめずらしいなんて、そんなこといわれてもなー、とこまってしまう。
たとえば牛の放牧を隠岐のひとにみせ、
「本土ではめずらしい風景です」といっても
ほとんどありがたくないのといっしょではないか。
海士町の水田風景は、ある場所でめずらしいということが、
どんな意味をもつのか かんがえてしまった。
「ないものはない」のだから、
水田があるのはけっこうなことなのだけど。
キャンプ場にほかの利用者はおらず、わたしひとりだった。
炊事場もトイレもあるし、夏はシャワーもつかえるようだ。
すぐそばまで波がうちよせており、
海には日本的でない形の岩が きれいにつきだしている。
波のうちよせる音がかなりおおきくきこえる。
海岸のかたちが波をいっそう迫力あるものにしているようだ。
じっさい、海からつきでた岩でつりをしていたひとが、
波のたかさからもどれなくなり、
あわてているようすがキャンプ場からみえた。
むかえにいった船が岩にちかづけず、
いったんひきかえして別の船が救助にやってきた。
つりをしていたひとは、そうとうこわかったのではないか。
夜になってテントでねていると、波の音はますますおおきくきこえる。
まるで台風がやってきたみたいな「ザッバーン!」という音に、
なんどもハッとする。
テントが波にもっていかれるようで、心配になるほどの音だ。
夜中におきだして波のつよさを確認すると、
音のおおきさほど海はあれていない。
波の音でねむれなかった、なんていうと、
町そだちのかぼそい精神をわらってしまいがちだけど、
ここのキャンプ場できく波の音は ほんとうに迫力がある。
夕ぐれもよかったし、朝の海岸もまたうつくしい。
隠岐諸島でいちばんおおきな隠岐の島がとおくにみえ、
フェリーやつり船がときどき沖をいきかう。
なんといっても、岩の形が絶妙で、まるでタイのビーチみたいだ。
本土の海岸線をみなれたものにとって、
はるばるやってきたかいがある。
たしかにこの景色は、ジオパークとして自慢したくなる。
きょうは自転車で散歩にでかけた。
島というと、なんとなくあるいてまわれるせまい空間をおもいうかべるけど、
じっさいにやってくると、はるかにひろくて
あんまり「島」というかんじがしない。
つりが目的だったり、島にしりあいがいるひとはいいけど、
そうでなければ、移動手段がないと どうにもならない。
それに、なにもすることがないときでも、
サイクリングさえすれば しっかりうごきまわった気になれる。
とはいえ、海岸ぞいのおおくの土地がそうであるように、
この島もまたのぼり・くだりがはげしくて、
のんびり自転車をこげる たいらな場所はそうおおくない。
きょうの散歩も、たいてい自転車をおして坂をのぼるか、
きゅうすぎるくだり坂に、ブレーキをひきつづけるかで、
散歩というよりトレーニングの気配がこゆかった。
かえりのフェリーをかんがえると、2時には港にはいっていたいので、
時間を気にしながら、2時間かけて半島をめぐった。
今回の小旅行は、『野宿野郎』のかとうちあきさんの影響がつよい。
はじめはとうぜん寝袋だけのつもりだったけど、
手ごろな寝場所がなかったときのことを心配して
けっきょくテントにたよってしまった。
冬の東北で、ためらいもなく野宿するかとうさんはすごい。
テントがあれば、さむさと風をふせげるし、
身をまもられているかんじが寝袋だけとは全然ちがうのに。
ただ、テント泊はそれだけ荷物がおもくなる。
かとうさんがテントをつかわないは、
きっと単純にめんどくさいのだろう。
寝袋とマットだけでどうにでもできるひとは、
テントのありがたさをあまりかんじないのかもしれない。
10月のキャンプ場は、夕方の6時をすぎると あたりがもうくらくなる。
はやめの夕ごはん(島のお店でかった鍋やきうどんといなりずし)をたべるともうすることがなく、
テントにはいって本をよんですごした。
これもまた、えがたい経験とはいえ、
ひとりでの野宿は時間をどうつぶすかがむつかしい。
宿にとまらなければ、当然まっくらな場所ですごすことになるのに、
わかっていながら ながすぎる夜をもてあましてしまった。
仲間がいれば、お酒をのんでおしゃべりすればいい場面であり、
いっしょにあそんでくれる仲間がほしくなった。
とはいっても、自転車にのって、キャンプにつきあってくれるひとは
そんなにいないから、けっきょく今回みたいに ひとりででかけることになる。
お天気にめぐまれ、さむくもなく、たのしい小旅行となった。
なによりも、野宿にむけての欲求が これですっかりみたされた。
ジオパークについては、なんのことかよくわからなかったけど、
海からみる海士町のよさは、観光船にのらないと体験しにくいので、
自転車による旅行はこんなものだろうと満足している。
(かかった費用)
・フェリー往復 6,480円
・食費 3,274円
合計 9,754円
「ないものはない」ので、島にコンビニはない。
スーパーもないので、自炊でお金を節約するのがあんがいむつかしい。
スポンサードリンク