タイトルがうまい。
わたしのよわいところをついてくる。
「就職しなくてもいい」と断言されるよりも、
こういういい方をされると かえって気もちがうごく。
わたしは「就職しなくてもいい」のだろうか。
「就職がしんどい」なんて異常だ、という疑問から本書はスタートする。
なぜこんな状況になったのか。
生きていくためにはお金が必要だから、というけど、
じっさいは、生きるだけならそんなにお金はかからない。
「好きなことをするために働く」というひともいるけれど、
月曜から金曜まではたらいたストレスを
お金をかけて土日で解消しているだけではないか。
岡田さんは、お金にならない仕事もふくめて、
50種類の仕事をしようと提案している。なぜか。
「目先の稼ぎよりも他者から感謝されることのほうに、
ずっと価値があると考えているからです。
評価を集めて、その評価の使い道を考えること。
これがいま、貨幣経済に取って代わろうとしている『評価経済』です」
「(評価経済の)世界では『お金持ち』は決して優位な人ではありません。
お金でお米を買うひとは『お金しか手段をもたない、かわいそうなひと』です。(中略)
お金のいらない世界の到来を実感して、
徐々にその世界へと足を踏み入れている人もいれば、
まったく理解できず、準備や心構えが何もできていない人がいます」
「昭和から平成のはじめくらいまでは『学歴が必要』でした。
平成の途中くらいから『キャリアをもたなければ』ということになりました。
いま転職や独立を考えている人は、どういうふうにしてキャリアをもっているように見せかけるかとか、どんな資格を取るかとか、
そんなことにばかり頭を使っています。
でも、肝心なのはコミュニティを育てられるかどうか、ですね。
自分が所属する人間関係です。
お手伝いを流通させることができるコミュニティです」
そして、「ポイントはキャラクター」だと。
「『平凡だけどいい人だ』
これでOK。キャラクターとは、特殊なおもしろキャラというわけではありません。
平凡な『いい人』の上に、ほんのちょっとしたトッピングが載っているみたいな感じで、
『いい人なんだけど、ちょっとヘンなところもあって』くらいで十分なのです」
「いい人」といっても、ほんとうに「いい人」でなくても大丈夫なのだそうだ。
みた目がよければそれでいい。
「いい人」になるのはたいへんそうだけど、
「ふり」をするのならわたしにもできそうだ。
みかけだけでも「いい人」なら、まわりが気にかけてくれたり、
仕事をまわしてくれる。
このさき景気がよくなることはのぞめず、
国全体が貧乏になっていく。
人手がないのに、医療・介護の需要はますますたかまる。
お金のやりとりだけでは、どうにもならない社会になってきたのだ。
そうした状況へ、まちがいなくすすんでいるいまの日本で、
評価経済はおおくの問題にヒントをあたえてくれる。
岡田さんはなにをめざしているのかというと、
「勇者」なのだという。
ロールプレイングゲームでいうところの勇者だ。
「そのためには、何でも知っていて、何でもできる必要があります。
つまり・・・その『何でも知っていて何でもできて、
いろんな知り合いがいる自分』になるために、
僕たちは仕事をするのです」(中略)
「生活の基本は冒険です。勇者なのですから。
一ヶ所にとどまらない。
行く先々で困った人を助け、仲間を増やす」
これって、きっと鷹の爪がめざしている世界征服のことだ。
そんな社会で生きるために、わたしはセンスをみがいてきたのだと、
気もちがかるくなってきた。
きらいなひとに愛想をふりまいたり、
フェイスブックで「いいね!」を連発するなんてできないけど、
「いい人」のふりならまだハードルがひくい。
貧乏をおそれず無駄づかいをしないのも、わたしの資質とあっている。
以前よんだ『ぼくはお金を使わずに生きることにした』(マーク=ボイル・紀伊国屋書店)にも、おなじことがかいてあった気がする。
「スキルを売るのではなく分かち合う」というかんがえ方だ。
わたしは、農的生活にあこがれてきたけど、
商品としての野菜づくりには興味がない。
まっすぐで きれいなきゅうりや大根しかうれないのだとしたら
野菜をつくっていても おもしろくない。
でも、お米をつくり、手つだってくれたひとにわけたり、あげたりして、
かわりになにかを提供してもらえたら
お金はかからないし、たのしい生活になりそうだ。
お米をうってもいいけど、基本的には「わかちあう」ものとしたほうが
お米の価値をいかせるのではないか。
農業で商品をつくり、その収入でくらしていくのはたいへんだけど、
仲間といっしょにとりくめばひろがりがもてるし、
いくつもある仕事のひとつだとおもえば気もちの負担がかるくなる。
ネットによるゆるいつながりもいかせそうだ。
「評価経済」ということばをきいたのは はじめてだけど、
そのかんがえ方にはしばらくまえから関心があった。
これまでによんできた「就職しなくても大丈夫」みたいな本よりも、
本書はずっとよく整理され、説得力があった。
そもそも、視点がまったくちがっている。
わたしは、「勇者」にはきっとなれない。
でも、なにかひとのやくにたてることはあるだろう。
なんとかたのしく生きていけそうな気がしてきた。
スポンサードリンク