『本の雑誌 12月号』の特集は
「天才編集者・末井昭に急接近!」だ。
この特集をよむまで、わたしは末井さんのことをしらなかった。
『小説マガジン』『写真時代』『パチンコ必勝ガイド』の編集長をつとめ、
ストリーキングのシメとして、はだかで道路のうえをころがり、
からだ全体をつかってイラストレーションをかいたり、
エロ雑誌をつくって発禁になったり、
不動産やさきもの取引にはまり、3億円の借金をかかえたり。
「前からやってた先物もそうだけど、
競馬、麻雀、パチンコ・・・思い返せば、
どうしようもない生活だった。
チンチロリンで一晩で1700万円勝ったり、
麻雀で300万円負けたりとか、そんなことをやってた。
愛人がいて、家に帰っても嘘ばっかり言ってたし、
借金もすごかったし、
本当に死んでもいいような状態だった」
(末井・『本の雑誌 12月号』より)
「特集」には「末井昭語録」ものっている。
・「目標を持て」なんて悪魔のささやきです
・嘘は孤独のはじまりである
・常識は暴力でもある
・今を楽しく暮らすことを考えればいい
・ちいさいオッパイは大きいオッパイより温かい
など、わたしには絶対にいえないことばが紹介されている。
天才とはおもわないけど(かなり庶民的ななやみもかかえているので)、
大人物であり、そうとうかわっていることはまちがいない。
どんなひとなのかもっとしりたくなり、
2012年に出版された『自殺』をよんでみる。
自殺についてはなかなかはなしがしにくいところがある。
でも、末井さんがかけば おおくのひとに関心をもってもらえるのではと、
出版社から原稿の依頼がきたそうだ。
末井さんのお母さんは、末井さんが7歳のときに
となりの家のわかい男性と心中したのだという。
ダイナマイトをからだにまきつけての心中であり、
それ以来 末井さんのまわりで 何人ものしりあいが自殺されている。
自殺のことばかりがかいてあるわけではなく、
前半は末井さんの自伝をよんでいるみたいだ。
そのうちにポツリ・ポツリと自殺のはなしにはいり、
一冊をとおして「生きること」「自殺とは」について
かんがえるような構成となっている。
インタビューには、なかなかはなしがきけないひとが登場する。
・日本一自殺がおおい秋田県で自殺をへらそうとしている研究者
・自殺の名所となっている富士山の樹海で活動する作家
・薬物依存症や自殺未遂といったひとたちをあつめた
「こわれ者の祭典」の主催者
・イエスの方舟の責任者
わたしは自殺をしようとおもったことはないけれど、
この一冊をよめば、自殺しなくてもいいかなーとおもえるのではないか。
自殺したひともふくめ、いろんなひとがでてきて
かなり悲惨な状態でも生きているし、自分のやりたいことをして、
そんな自分をわらってもいるひともいる。
「お金のことで抜き差しならなくなるシチュエーションは
いろいろ想像できますが、
お金のことで死ぬなんて馬鹿馬鹿しい、(中略)
お金のことなんかで死んで欲しくありません。
そんなことで深刻になる必要はまったくありません」
都道府県べつの自殺死亡率(2011年)では、
島根が6位、鳥取が9位と山陰の2県が上位にランクされている。
宮崎県や沖縄県も上位なので、日照時間だけでは説明がつかない。
それだけ山陰にはまじめなひとがおおいのだろうか。
わたしの印象では、こういうネガティブな調査になると 島根県はかならず顔をだし、
反対にポジティブな調査では最下位をあらそうことがおおい。
「どうせロクでもない社会なんだから、
真面目に自分を突き詰めるんじゃなくて、
もっといい加減に生きたらいいのに、
と思う僕は強い者だからでしょうか」(末井)
さいごの章は「迷っている人へ」となっている。
「本当は、生きづらさを感じている人こそ、社会にとって必要な人です。
そういう人が感じている生きづらさの要因が
少しずつ取り除かれていけば、社会は良くなります。
取り除かれないにしても、生きづらさを感じている人同士が、
その悩みを共有するだけでも
生きていく力が得られます。
だから,生きづらさを感じている人こそ
死なないで欲しいのです。
もしいまあなたが、自殺しようかどうしようか迷っているのでしたら、
どうか死なないでください。
そこまで自分を追い込んだらもう充分です。(中略)
それでも自殺を思い留まることができなかったら、
とりあえず明日まで待ってください。
その一日が、あなたを少し変えてくれます。
時間にはそういう力があります。
ほんの少し、視点が変わるだけで、気持ちも変わります。
そして、いつか笑える日が来ます。
きっとー。」
自殺をかんがえているひとが もしまわりにいたら、
ぜひこの本をすすめてほしい。
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