2014年12月10日

『ヒューマン なぜヒトは人間になれたのか』(NHK取材班) こころの起源は「分かち合い」から

『ヒューマン なぜヒトは人間になれたのか』(NHK取材班・角川文庫)

人類の起源や、どうやってアフリカ大陸から世界じゅうにひろがったかという本がすきだ。
この本は
「こころとはなにか」という といかけから
人類の歴史をたどっている。
ほんとうに、こころとはなんなのだろう。
人類の祖先はいつこころをもち、
それはどう変化していったのか。
自分のものなのに、こころがおもいどおりにならないのはなぜか。

取材班は「分かち合い」がこころのはじまりだという研究にたどりついた。
わかちあい、たすけあうのは人類だけで、
チンパンジーはたすける能力はもつが、たすけあわない。
そして、わかちあいの社会であるためには
集団でくらすものすべてが 平等であることをもとめられる。
アマゾンでくらす先住民が、グループのだれもに たべものをわけるのは、
そうしなければ生きのびられなかったからで、
仲間をおもいやる美談などではない。

「食物供給が基本的に不安定な部分があるんです。
そういうときには社会関係を緊密に構築しておくと、
自分が捕れなかったときにはほかの人が助けてくれることがあるわけですね。
つまり、彼らにとっては、長持ちしない物を溜めておくよりも、
人間関係を溜めておいたほうが有利なんです」(P478)

平等をまもるためには、それをやぶるものを排除するしくみも生まれる。

「獲物を仕留めた若者が何も言わずに肉を配って回ったことにも、
不平等の芽を摘む意味がある(中略)
体重数百キロもある大型獣を倒したときでさえ、
いやむしろその場合にこそ、ハンターは得意そうにガッツポーズをしたりせずに、
控えめに振る舞わないといけない。
傲慢なものや得意になったものは、
徹底的に拒否されるそうだ」(P509)

「こういう社会は、発展しづらい社会であるのは確かです。
しかし、発展よりも安定を優先させて生きることが、
人類の長年の戦略だったのです」(P510)

また、自分たちの集団ではないものへの攻撃性も、
平等とうらおもてだ。

「集団で協力して生きていくために育んできた共感やモラルという心が反作用し、
『自分たち』以外の人間や集団を躊躇なく攻撃できるようにしているというわけだ」(P284)

本書では、いまわたしたちがかかえている「こころ」は
「歴史的な産物」という視点を紹介している。
平等をたもつくらしを、
人類の祖先たちは ながいあいだつづけてきた。
そのあいだにそだててきた価値観が、
いまもわたしたちの「こころ」にのこっている。
わたしは、本書をよんでから、こころのうごき すべてを、
集団での平等からかんがえるようになった。
たとえば、ひとが生きるためにはプライドが必要だ、
とよくいわれるけれど、
集団の平等をまもるためにプライドはどんな意味をもったのだろう。
日本は恥の文化だというのもよく耳にする。
集団の平等において、はずかしくおもうこころが なぜ大切だったのか。
サッカーで 選手とサポーターがおおさわぎしながらゴールをねがうのは、
平等をまもることと どんな関係があるのか。
ほかのひとによる目ざわり・耳ざわりなうごきが
なぜ気になるのかも、10万年まえからのしくみに理由があるのかもしれない。
「まじめ」さが大切にされるのも、生きのびるうえで必要だった能力なのだろう。
ひとからあやまられると、なぜわたしたちは気をゆるすのか、などなど。
すべてのこころのうごきは、その起源を
10万年まえにはじまった平等な社会にもとめられる。

「はたらかざるもの くうべからず」なんて
まちがったことをいいだしたのは だれだ。

もうひとつ つよく印象にのこったのは
お金の発明についての章だ。
わたしたちの祖先は、ながらく平等を基本とする社会であったのに、
お金の発明によって 分業が生まれることになる。
それまで分業が成立しなかったのは、その前提となる交換をしないからで、
交換にはお金が必要だった。
お金がなければ交換もなく、交換がなければ分業もなかった。
人類の歴史において、お金こそが
もっとも重要な発明だったのかもしれない。
貨幣がつくられるまえには、石や塩がかわりにつかわれていたというけれど、
これらはあくまでも にたような機能をはたしたにすぎない。
石や塩ではかんたんに貯蔵ができないし、お金ほど信用されない。
お金がなければ巨大な都市は発展せず、
つよい国なども生まれなかった。

お金とはなんなのか。
なぜわたしはお金がどうしても必要なものと
おもいこんでいるのか。
10万年ものながい人類の歴史からすれば、
お金が発明されてから ほんのわずかな時間しかたっていないのに、
いまではすっかり人間の生活すべてに影響をあたえている。
いまから必要なものを 平等にわけるくらしにもどるわけにはいかないけれど、
お金のすさまじい威力にくっしないで、すこしは抵抗したくなってくる。

こころの起源とお金の発明。
平等でなければならなかった社会がこころをうみ、
交換による分業で富が蓄積され、やがてお金が発明された。
わたしにとって、この本とのであいは、
きわめて重要なできごとになりそうな気がする。
ますます はたらく気が しなくなってきた。

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posted by カルピス at 13:21 | Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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